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2014.03.02

『明報』前編集長襲撃 懸念される報道の自由

 26日朝、香港島の西湾河で有力紙『明報』の編集長だった劉進圓(ケビン・ラウ)氏が2人組の男に襲われ重症を負った。ラウ氏は今年1月、『明報』の編集長を突然解任させられており、同紙ジャーナリストらは報道の自由への弾圧だと反発していた。

 ラウ氏は26日9時ごろ、朝食を取るために西湾河に向かい、車を停めて降りた直後、2人乗りのバイクの後ろの男に刃物で襲われ背中や足、肩などを6回刺された。ラウ氏は自力で警察に通報した。
 犯行後、容疑者はタクシーに乗ってMTR九龍塘駅まで行き、地下鉄で中国本土に逃走したとみられている。香港警察は容疑者2人が映った監視カメラの映像を公開するとともに、事件があった時間に犯行現場付近で使われた複数の携帯電話の番号を突き止めたと発表した。

1万3000人が抗議デモ
 ラウ氏は病院で手術を受け、集中治療室にいるが、容態は安定してきており意識もしっかりしている。見舞いに訪れた知人に劉氏が最初に言ったのは、私と仲間や『明報』が進めている憲法改正のフォーラムを止めないでほしいという言葉だった。
 事件後、『明報』は普段は赤字で印刷する新聞名を抗議の意味を込めて黒字で印刷し、26日は香港のジャーナリズムにとって暗黒の日となったという声明を発表。犯人逮捕に100万香港ドル(約1300万円)の懸賞金を出すことも決めている。

 梁振英行政長官ら政府高官はラウ氏が入院している病院を訪れた。梁行政長官は犯行を批難したが、犯行理由の推測は避けた。今回の犯行は、殺しはしないが十分に分からせるという香港マフィアの典型的なやり方とみられている。
 3月2日には報道の自由が暴力で脅かされる事態に危機感を抱いた市民やジャーナリストら約1万3000人が、特区政府総本部から湾仔の警察総本部まで暴力に反対するデモ行進を行い、香港警察に事件の早期解決を求めた。デモ参加者の人数は主催者側と香港警察で食い違っており、香港警察はピーク時で8600人としている。

解任は中央政府の意向か
 ラウ氏の編集長解任は中央政府の意向だとする声もある。ラウ氏は1月6日、電子書籍部門の関連会社に移動させられた。『明報』のスタッフはこれに激しく抗議。香港の新聞界にも衝撃が走った。
 『明報』は天安門事件の犠牲者を追悼する「六四キャンドル集会」や本土の民主活動家、李旺陽・氏の獄中死亡事件、自由な報道体勢を取る香港電視網絡(Hong Kong Television Network Limited)の無料テレビ放送のライセンスが特区政府から認可されなかった事などを深く報じてきた。これらが中央にとって喜ばしくない内容だった可能性があり、『明報』の上層部に働きかけたのではといわれている。
 新しい編集長にはマレーシア華僑の張暁卿・氏が着任しているが、これに対しても同紙スタッフは「どこからともなく新編集長が任命されてやって来た」と不満を露にしている。

 香港では過去にもジャーナリストが銃撃される事件が2件起きている。1996年、『サプライズウィークリー』の発行人が事務所で襲撃され、刃物で切られ左腕のひじから下を切断された。雑誌に掲載された記事が香港マフィアの怒りを買ったとみられている。この雑誌はその後、廃刊になった。
 また、1998年にはトーク番組の司会者が九龍塘のラジオ局の外で刺される事件も起きている。この司会者は2004年、政治的圧力を理由に退職している。2件とも犯人逮捕には至っていない。2月26〜3月2日付け香港各紙が伝えた。

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