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2014.10.17

生活・経済に影響も 混迷セントラル占拠

デモ隊が占拠する金鐘の政府庁舎付近の幹線道路(2014年10月10日撮影)

デモ隊が占拠する金鐘の政府庁舎付近の幹線道路(2014年10月10日撮影)

 構想発表から2年近くを経て実施された「セントラル占拠行動」は学生を中心に金鐘、銅鑼湾、旺角など各地を占拠する長期的な大規模デモ活動となった。警察の対処に対する批判がデモ拡大を招き、特区政府と学生団体との対話も進まず、生活や経済への影響から占拠行動に反対する市民がデモ隊と衝突。依然、収束の見通しは立っていない。

 香港専上学生連会(学連)は9月22日、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会による行政長官普通選挙に関する決定への抗議として授業ボイコットを開始。全人代常務委に決定撤回、行政長官候補の住民指名の実現、梁振英・行政長官らの辞任など4つの要求を提示した。金鐘の特区政府本庁舎前で集会を行っていた学生らは26日深夜から政府本庁に乱入して警官と衝突。集会参加者は28日未明に数万人に達した。

 セントラル占拠行動の10月1日決行を示唆して繰り上げ実施はないと発言していた戴耀廷・発起人は9月28日午前1時半ごろ、同集会で開始を宣言。参加者らは金鐘の幹線道路を占拠し警官隊と衝突したため、28日午後6時ごろから警察は催涙弾を放ち強制排除を試みたが、収束の気配は見られなかった。同日夜からは警察の催涙弾使用に抗議する市民らが湾仔の警察本部前、銅鑼湾、旺角に集まり、徹夜で座り込みが行われた。政府は28日夜、セントラル占拠の発起人らに対し「混乱が発生した際にはセントラル占拠を中止する」という事前の承諾を守り、即時集会を解散させるよう呼びかけた。戴氏は想像を超えて制御不能に陥ったことを認め、学連も全面撤退を呼びかけた。

 梁長官と林鄭月娥・政務長官は10月2日深夜に記者会見を行い、事態収束に向けて学連の代表と対話すると発表した。学連はその2、3時間前に発表した公開書簡で林鄭長官らとの対話を要求。議題は政治体制改革に限り、それまで要求に掲げていた梁長官ら高官の辞任や全人代常務委の決定撤回には触れていなかった。これを受けて政府は林鄭長官らが短期内に学連代表と対話することを決めた。だが3日に旺角などで付近住民が集会を強制排除しようとして衝突が発生。逮捕された市民の中に暴力団関係者もいたため、学連は警察が暴力団と結託していると指摘して会談を棚上げ。その後10日に対話を行うことで合意したものの、学連代表が再び全人代常務委の決定撤回と住民指名を要求したため林鄭長官は9日夜に対話棚上げを発表。金鐘で10日夜、特区政府が対話を棚上げしたことに抗議する大規模集会が行われた。

梁長官は12日、無線電視(TVB)の番組「講清講楚」に出演。学生らの占拠行動を外国メディアが「雨傘革命」と名付けたが、梁長官は「革命」とは定めず「制御不能になった群衆運動」と形容。現在の運動は発起人の構想からかけ離れていると指摘した。辞任要求に対し「考えたことはなく、自分が辞任しても問題は解決しない」と述べたほか、学生らが要求する全人代常務委の決定撤回と住民指名導入は不可能と断言。基本法では香港の政治体制改革は全人代常務委の批准が必要とされ、自治の範囲内ではないと説明した。

 ロイターは14日、中央指導者に近い消息筋3人の発言を引用し、習近平・国家主席が今月初めに主催した国家安全委員会の会議でセントラル占拠行動に対し「断固として譲歩しない」との決定を下したことを明らかにした。消息筋は中央が過去にすでに2回、香港のデモ活動で譲歩したと指摘。1つは2003年の基本法23条による国家安全条例の立法撤回、もう1つは12年の国民教育反対運動。このため中央はすでに香港のデモに我慢できず、また普通選挙は主権問題であるため3度目の譲歩はないとみる。仮に譲歩すればチベット、新疆などで同様に選挙権を要求する運動が起こるためだ。

副首相が欧米の関与指摘
 占拠行動が始まってから路線バスの運休・路線変更、小中学校の休校、銀行の営業拠点閉鎖、緊急車両の到着遅れなど市民生活にも影響。国家旅遊局が中国本土から香港への旅行ツアーの認可を停止するなど、書き入れ時である国慶節(建国記念日)連休と重なったため小売業界を中心に経済への打撃も表れた。香港零售管理協会は小売商に調査を行い、小売りチェーン企業や中小企業30社が回答。影響を受けた地域の1~5日の店舗売上高は20~50%減で、時計・宝飾品店の打撃が最も大きく、10月の小売業界売上高は同月としては03年以来のマイナス成長が見込まれている。酒店業連会は、セントラルと金鐘のホテルの連休の平均客室稼働率は例年の85%から50~60%に落ち込んだと指摘。汽車交通運輸業総工会などは交通まひで運輸業の売上高は通常より30~50%減と説明。中でもタクシー運転手らは売上高が50%減、九龍バスは半分の路線が影響を受け職員の収入は半減すると指摘した。香港大学香港経済及商業策略研究所は、セントラル占拠が3カ月続けばGDP伸び率は1・2%押し下げられ、経済損失は62億ドルに達するとの見通しを示した。

 占拠行動は発起人が制御不能を認めたり、学生団体の撤退呼びかけにも応じないなど主導者が明確でない。民主派重鎮の1人であるカトリック香港教区の陳日君・元司教が8日、ブログとテレビで学生らを批判し、ただちに撤退するよう呼びかけたが収束しなかったことも疑問だ。

 中国共産党の機関紙『人民日報』は10月1日付から連続でセントラル占拠に関する論説を掲載しているが、4日の論説で「ごく少数の者が香港を通じて中国本土で『カラー革命』を起こそうとしている」と述べ、外国勢力の関与を示唆。そしてロシアの報道によると、汪洋・副首相が11日、訪問先のロシアで「西側諸国は香港の反体制派を支援し、中国でいわゆるカラー革命を推進しようとしている」と述べ、国務院幹部としては初めて占拠行動への欧米の関与を指摘した。

 また7日付『星島日報』などによると、米国の地政学シンクタンク、ランド・デストロイヤーのトニー・カタルッチ研究員が同シンクタンクのブログで「セントラル占拠のシナリオはホワイトハウスが作成」と題する文章を掲載。陳方安生・元政務長官と李柱銘・元民主党主席が4月に訪米した際、全米民主主義基金(NED)幹部とセントラル占拠のプロセスなどについて会議を行ったことを明らかにした。カタルッチ氏は「セントラル占拠は米国が資金提供し、指導的な役割を持つ。セントラル占拠の真の目的は外国勢力が支持する政治集団に権力を取らせ、香港をソフトな植民地とし、中国を不安定にするのが狙い」と指摘した。同シンクタンクは米国務省がNEDと米国国際民主研究所(NDI)を通じて各国の非政府組織(NGO)に資金援助していることを暴露してきた。真偽はともかく中央政府の決定と姿勢はこうしたことに基づいており、状況打開の道はそれを踏まえねばならない。(2014年10月24日『香港ポスト』)

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