「セントラル占拠行動」で暮れた2014年は香港経済の見通しにも影を落とし、特区政府の見込みである域内総生産(GDP)伸び率2.2%の達成も危ぶまれる。だが15年のGDP伸び率予測はおおむね2.5〜3%で、前年を上回ると期待されている。ただし鍵を握る内需は中国本土観光客による消費や住宅価格の動向に影響されるため、先行きは楽観できない。
曽俊華(ジョン・ツァン)財政長官は昨年12月、最新の経済状況を説明した際、政治要素以外に世界経済の回復が遅れていることも香港経済の下ぶれリスクになっているため第4四半期の経済動向は楽観できず、通年のGDP伸び率予測の2.2%をさらに下方修正する可能性を示唆した。占拠による影響を受けた業界は小売り、飲食、ホテル、運輸、観光関連にわたり、小売業界の10月の売上高伸び率が低下したことや観光統計で中国本土以外からの旅行者が7%減となったことを注視すべきと指摘。労働市場では賃上げや雇用に影響し、失業率は上昇するとの懸念も示した。
各金融機関は昨年12月、今年の香港経済の見通しに関するリポートを発表。中国銀行(香港)は、今年も引き続き内需の鈍化による制約を受けるが公共投資や住宅の着工量増大で内需は小幅な伸びを維持するため、GDP伸び率は昨年見込みの2.2%を上回る約2.8%と予測。スタンダード・チャータード銀行は、中国経済の減速による影響を受けるもののGDP伸び率は3%と予測。ただし先に発表した予測からは下方修正した。シティバンクは、中国経済の減速や腐敗撲滅、来港者の消費減少などから香港のGDP伸び率は第1四半期にわずか2%にとどまるが、中国人民銀行(中央銀行)の金融緩和や米国経済の回復によって通年では2.6%に達するとみる。JPモルガン・チェースはGDP伸び率を2.5
%と予測した。
一方、香港経済がマイナス成長に陥るとの見通しもある。UBSは最悪の場合としてGDP伸び率は今年がマイナス2%、来年がマイナス3%となり、失業率は来年に5.2〜6.4%にまで上昇すると予測。これまで香港経済を支えていた本土からの観光客の伸び率が低下していることや、本土との中継貿易減少が主因だ。中国が韓国やオーストラリアと自由貿易協定を締結したことが中継貿易の減少につながると指摘している。
香港貿易発展局(HKTDC)は昨年12月、今年の貿易見通しを発表した。HKTDCの関家明・研究総監は「世界経済の成長による恩恵を受け香港の輸出は軽微な伸び幅を維持する」と述べ、今年の輸出総額と輸出量ともに3%の伸びを予測した。ただし輸出の景況を表す輸出指数は昨年第3四半期が38.5で、第2四半期から3.5ポイント下落。依然として景況の分かれ目となる50を下回っており、香港の貿易企業は短期的な輸出動向を悲観していることが反映された。
香港総商会は昨年11月、ビジネス動向に関する調査報告書を発表。調査は同商会の会員企業を対象に行われ、369件の回答を得た。占拠行動によって「香港の競争力が低下している」と答えた企業は68%に上り、香港経済の成長率は鈍化するとみる。今後2年のGDP伸び率については「2〜4%」と答えた企業が大部分を占めたが、20.9%は今年のGDP伸び率について「0〜1%」と答えた。
豪州会計士協会は昨年11月、財務・会計専門職(香港250人、本土204人)を対象に香港経済の見通しに関する調査を行った。今年の香港経済について「楽観」は42%、「悲観」は40%。「悲観」との答えは12年以降で最高となった。香港経済の発展を阻む要因としては61%が「政治環境」、48%が「アジア内での競争激化」を挙げた。同協会は本土の多くの顧客が昨今の香港の政治環境から新規株式公開(IPO)を先送りしたことを明らかにした。
住宅相場は15%上昇も
昨年は香港の住宅相場が過去最高を更新した。今年にも利上げが実施されるとみられる中、住宅価格の動向について不動産業界では見通しが分かれているもようだ。
不動産コンサルタントのジョーンズ・ラング・ラサールは、不動産抑制策があっても実際の需要が高いため今年の住宅価格が下落する可能性が低いとみる。特に500万ドル以下の中小住宅物件は約5%上昇、高級住宅物件は伸び幅が小さいと予測。サビルズは高級住宅物件の賃貸料が約5%上昇するほか、投資市場としてはショッピングセンターと工業ビルが注目されるとみている。両社の全体的な予測伸び率はほぼ同じで、住宅価格は0〜5%上昇、高級オフィス賃貸料は0〜5%上昇、店舗賃貸料は0〜5%下落となっている。ナイトフランクは高級住宅の下落幅は5%以内、中小型住宅は安定を維持すると予測。住宅ローン金利の引き上げ幅が3%以下の場合は住宅市場に影響はもたらさないとみる。また住宅価格が本格的に下落するのは16年と指摘。そのときには住宅供給の増加、利上げなどの影響が拡大する可能性があると説明した。
不動産代理の中原地産は、中古住宅価格の指標となる中原城市領先指数(CCL)が昨年12月の約130から今年の春節(旧正月)前までに140を超えて過去最高を更新すると予測。第1四半期までに5%上昇、上半期では10%上昇するとみる。CCLは昨年通年で約12%上昇した。美聯物業は、来年の住宅市場は新築・中古ともに供給が増え、利上げ予想が高まるため、全体的な住宅価格は上半期に2〜5%の上昇にとどまり、下半期は下落する可能性もあるとみる。DTZは通年で10〜15%上昇、中でも中小型物件は15%上昇すると予測。失業率が低水準を維持し経済成長を持続していることから楽観している。
金融機関の見通しでは、シティバンクが米国の利上げが第4四半期になるとみて通年で8%上昇と予想。JPモルガンは米国が第2四半期にも利上げを始める可能性を指摘し中古住宅価格は5〜10%下落すると予測。UBSは16年に現在より21%下落、最悪の場合は39%下落するとみている。
住宅政策を検討する長遠房屋策略督導委員会は昨年12月、今後10年の住宅供給目標を48万戸に設定。前年に発表した47万戸から目標を引き上げた。48万戸のうち公共住宅と民間デベロッパーによる供給の割合は6対4を維持し、賃貸型公共住宅は20万戸、分譲型公共住宅は9万戸、民間デベロッパーによる供給は19万戸となる。需要の変化から分譲型公共住宅の供給量を1万戸増やしたという。
特区政府差餉物業估価署が発表した昨年10月の住宅価格指数は270.1(速報値)で、過去最高を更新。1〜10月の累計では10.2%の上昇となり、13年通年の5.4%の倍の伸び率となっている。13年のピークに当たる8月の246.3を9.7%上回った。政府は住宅供給のピッチを上げる意向だが、果たして住宅価格にはどう影響するだろうか。(2015年1月1日『香港ポスト』)