過激な民主派団体が週末ごとに並行輸入業者や自由行(中国本土からの観光目的による個人旅行)の旅行者を排斥するデモを行い、警官隊との衝突が頻発している。デモを行っているのは昨年の「セントラル占拠行動」に参加していた民主派団体で、「香港独立」の主張を掲げる者もいる。当局は暴力行為を非難するとともに、排外主義の拡大に警戒を高めている。
排外主義への警戒高まる
排斥デモは「熱血公民」「本土民主前線」「学生前線」「学民思潮」「香港図博民族自決会」など民主派の過激派勢力が主催しているもので、2月8日~3月15日に発生した衝突で計69人が逮捕された。2月8日は新界・屯門で約350人が午後3時にMTR屯門駅前に集まり、深セン市に向かう越境バス乗り場までデモ行進。デモ隊は薬局をみつけると顧客の出入りを阻むなどし、午後6時ごろには約150人がショッピングモールに乱入。デモ隊はペンキや刺激臭を放つ瓶を投げ、警官は胡椒スプレーで制圧した。衝突は午後8時ごろまで続き13人が逮捕された。
翌週15日にデモが行われたのは新界・沙田。300人余りが午後3時にMTR沙田駅前に集まり、ショッピングモールでデモ行進した。旅行カバンを持った買い物客に対し「本土へ帰れ」などと攻撃したほか、英国植民地旗を掲げて「香港独立」や「香港建国」と叫んだ。夕方にはデモ隊と買い物客がののしり合うなどで混乱が発生し、警官隊が催涙スプレーで対処。夜8時ごろまで衝突が続き6人(17~36歳)が逮捕された。
春節(旧正月)連休明けの3月1日には新界・元朗でデモ。約200人が午後3時にMTR朗屏駅を出発するとともにデモに抗議する地元住民との間で衝突が発生し、午後4時ごろから警官隊が催涙スプレーなどで対処。午後10時まで警官隊との衝突が続き、流血の事態も発生。38人(13~74歳)が逮捕された。
逮捕者からは可燃性の液体、ラー油スプレー、イオウ粉末、ナイフなど殺傷力のある武器が押収され、警察は平和的なデモではなく暴力行為を準備していたことを示した。逮捕者はセントラル占拠参加者が多く、地元・元朗の住民は数人しかいなかった。デモ隊は英国植民地旗を模した旗を掲げていたが、ネット上で「香港独立の父」ともいわれる排外主義学者の陳雲氏がデザインしたものという。
9日には上水、屯門、尖沙咀の3カ所で立て続けにデモが発生。午後2時にMTR上水駅前に約50人が集まったが、沿道で多くの警官が待機し大部分の店舗はシャッターを降ろしていたため、デモ隊が行進を始める前にネット上で召集人が屯門への移動を宣言。午後5時にMTR屯門駅前に約150人が集まり、ショッピングモールを行進して買い物客をののしった。午後6時ごろには越境バス乗り場で旅行者や住民の荷物をけとばすなどで衝突。4人(13~21歳)が逮捕された。午後9時ごろには数十人が尖沙咀でデモ行進し、警官隊との衝突で2人(18~26歳)が逮捕された。
15日の礼賓府(行政長官公邸)一般開放でも並行輸入業者排斥デモが予告されていたため約500人の警官が配備された。入場時にはデモ活動に関連した物品持ち込みは禁止されたが、一部の民主派メンバーが入場を果たし、黄色い傘を開いたり、英国植民地旗を掲げて「香港独立」のスローガンを叫ぶなどしたところを警官に捕らえられた。開放時間内に退場させられたのは約30人、逮捕されたのは2人だった。
同日には排斥デモに反感を持つ市民らの抗議デモもいくつか行われ、香港各地で計1000人余りが参加した。デモは「愛港之声」「和平論壇」「占中不代表我(セントラル占拠は私を代表しない)」「民主建設行動」などの親政府派団体が企画し、民主派団体は並行輸入業者への抗議に名を借りて暴力行為、社会の分裂、香港独立を扇動していると非難。警察に過激なデモを取り締まるよう訴えた。
本土住民の渡航引き締めへ
全国人民代表大会(国会に相当)の張徳江・委員長は3月8日に発表した常務委員会の活動報告で、昨今の「香港独立」や「自決」など分裂をあおる言論について「ごく少数の言行だが、香港の利益を損なうため厳しく警戒しなければならない」と述べた。張委員長は4日に全国政協香港・マカオ委員の連席会議に出席した際も「何らかのたくらみを持つ者が香港と本土の関係を壊そうと挑発している」との見方を示した。
全国香港マカオ研究会副会長や基本法委員を務める北京大学法学院の饒戈平・教授は5日、香港メディアの取材を受け、「香港独立の主張は香港社会の主流民意ではないと信じるが、警戒は強めるべき」と述べたほか、それぞれの地域に「地元意識」があるのは当然だが、地元意識が政治傾向を持ち「独立意識」とつながれば危険な政治思想傾向になると説明した。
香港中文大学アジア太平洋研究所は2月、自由行に関する世論調査(対象743人)を行った。排斥デモについて54%が「賛同しない」と答え、「賛同する」と答えたのはわずか16%。だが自由行による旅行者数はすでに香港の受け入れ能力を上回っているかについては63.3%が「同意」と答え、昨年3月調査時の53.6%から拡大。「同意しない」は12.1%だった。自由行政策を「引き締めるべき」が66.7%、「現状維持」が25.1%、「拡大すべき」が3.4%だった。
国家工商総局の張茅・局長は3月9日の記者会見で、並行輸入活動が正常な消費目的でない購買活動で、「本土と香港の価格差を利用し、税関の監督管理を回避している」と指摘。これら業者による商品の大量購入は「香港の民衆の生活に不便をもたらし、合法的な企業経営の空間を圧迫。同時に本土市場の秩序を乱す」と批判した。このため国家打撃走私弁公室を中心に工商関連部門が参加する組織をつくり、並行輸入活動を厳しく取り締まる構えだ。
国務院香港マカオ弁公室の周波・副主任も『南方都市報』の取材を受け、政府の調査研究で香港の旅行者受け入れ能力がほぼ限界に達していることを認め本土住民の香港への渡航引き締めを示唆。発表はそれほど先ではないことを明らかにした。ただし「自由行政策は2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)流行で打撃を受けた香港・マカオを支援するために始まった歴史を軽視すべきではない」と述べ、見直しに当たっては観光・小売業が影響を受けないよう配慮するもようだ。政府としては社会の分裂に利用される問題を早く取り除きたいところだろう。(2015年3月27日『香港ポスト』)