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2015.11.07

来年のGDP伸び率1%に 経済に悲観高まる

 スイスの金融大手UBSが9月に発表したリポートで、香港の来年の域内総生産(GDP)伸び率は1%にとどまるとの見通しを示し衝撃的に受け止められた。投資銀行CLSAは住宅価格が今後2年で17%下落すると予測。中国経済の減速、旅行者の減少、米国の利上げなどの影響から、今後の香港経済に対する悲観的な見方が広がっている。

 UBSのリポートは「香港の観光業の先行きは2009年の金融危機、03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)流行時より悪化している」と指摘し、失業率は現在の3.3%から4.5%にまで上昇するとみる。今年下半期のGDP伸び率は1.5%、通年で2%、来年は1%と予測。09年以降で最低の伸び率となる。

 他の機関も同様に香港経済の見通しを悲観しているものの、成長率予測はおおむね2%以上だ。アジア開発銀行が9月に発表したリポートでは今年通年のGDP伸び率は2.4%、来年は2.7%。香港大学経済及商業策略研究所が10月6日に発表したリポートでは、第3四半期が2.2%、第4四半期は1.9%に鈍化するが、通年伸び率は2.3%。観光客の減少、深セン市民の数次ビザの制限、株式市場の調整による消費マインド低下が影響し、小売総額は第3四半期に前年同期比0.4%減、第4四半期は同2.6%減となり、通年では同0.2%増にとどまると予測している。

 星展銀行(DBS)は10月13日、今年と来年のGDP伸び率はともに2.5%との予測を発表した。飲食・ホテル業では失業率が8月にすでに5.2%に達し、小売業の失業率も来年半ばから上昇すると指摘。ただし香港の小売業サービスは香港と中国本土の両方を市場としているため、全体的な失業率は顕著に上昇せず3.5~4%を維持するという。

 豪州会計士協会が会員に行った調査では5割余りが来年の香港経済を悲観していることが分かった。16年の香港経済に対する見方は「楽観」が9%、「受け入れられる」が34%、「悲観」が53%となっており、「楽観」は昨年の16%から縮小、「悲観」は昨年の40%から拡大した。さらに来年の経済発展を阻む最大の要因として56%が「政治環境」を挙げた。

 特区政府統計処が発表した8月の小売業総売上高は前年同月比5.4%減で6カ月連続の減少となった。本土の大型連休である国慶節(建国記念日)連休も消費市場は振るわなかった。入境処の統計では10月1~7日の来港者数は前年同期比1.5%増の133万人、うち本土からは同2.3%増の111万9000人、その他の地域からが同2.8%減の21万2000人。本土からのうち数次ビザによる深セン市民の来港は同26%減、自由行(本土からの観光目的による個人旅行)は同8%減。ツアー客は同14%増だったが、香港旅遊業議会に登録されたツアー客は同24%減だった。旅遊業議会の胡兆英・主席は、海外旅行での経由や米国の大学進学適性試験(SAT)受験のための来港者を除くと本土客は昨年より少ないと指摘。香港工会連合会・香港百貨商業雇員総会は、連休中の小売業界の売上高は少なくとも同50%減、1人当たり平均消費額は同40%減とみている。

 化粧品販売の莎莎は10月22日、上半期(9月期)決算で大幅な減益となる見通しを発表。上半期は前年同期比で50%以上の減益となる見込みで、同社が収益警告を出すのは上場以降の過去18年で初めて。50%以上の減益は03年以降で半年としては最大の減少幅となる。同社は黒字転換した03年以降、昨年までの12年間で純益は13倍以上に成長したが、今年の純益は5年前の水準に戻るとみられる。国慶節連休の香港・マカオでの売上高は前年同期比10.4%減、既存店売上高は同8.7%減。本土からの旅行者による売上高は同10%減で、販売件数は同1%増と微増だったものの、1件当たりの平均金額が同12%減だった。

観光客増加へ財界が提案

 小売業界団体の香港零售管理協会の鄭偉雄・主席は10月27日、今年通年の小売総額は前年比2~3%減になるとの見通しを明らかにした。このほど就任したばかりの鄭主席は、1~8月の小売総額が前年同期比2.2%減だったことを挙げ、間もなく訪れるクリスマスと春節(旧正月)の書き入れ時も例年より劣るとみる。

 小売業界の落ち込みに当たって財界基盤の香港経済民生連盟(経民連)は9月22日、梁振英・行政長官に対して自由行改善の提案書を提出した。経民連は中国パスポートを持つ本土住民約8000万人のうち約2000万人は電子パスポートを持っており、これらの人が自由行ビザをネット申請して来港できるようにすべきと提案。電子パスポートを持っている人は比較的裕福で海外旅行の経験もあり、現在自由行が解禁されている49都市にとどまらないことから来港者拡大に有利と説明した。

 不動産市場については、米国の利上げ観測などから住宅相場が下落するとの見方が高まっている。不動産融資サービスの経絡按掲が322人を対象に行った調査によると、住宅価格について「横ばい」との回答は昨年の35%から47%へと拡大、昨年わずか3%だった「下落する」との予測は28%に拡大。逆に昨年は62%だった「上昇する」は25%に縮小した。

 不動産コンサルタントDTZによると、政府の積極的な土地放出で今年販売可能な新築物件は顕著に増え、年内に約1万戸の供給を見込む。このため住宅価格は第4四半期に5%下落、通年伸び率は10%に抑えられるとみる。

 投資銀行CLSAが10月20日に発表したリポートでは住宅価格は今後27カ月で17%下落すると予測。第4四半期に2%下落、来年は10%下落、再来年さらに5%下落とみている。過熱抑制策である印紙税の支払い件数は9月までに4カ月連続で下落し、過去1年で最低の2952件にまで減少。中古物件の取引も週平均41件で、SARS流行時の03年第1四半期に比べ40%も少ない。10月には新築物件の成約率が従来の90%から65%に低下したという。

 利嘉閣地産が指標とする50大団地の9月の平均家賃(実用面積1平方フィート当たり)は前月比1.3%下落の33.13ドル。17カ月連続の上昇から下落に転じた。昨年8月から13カ月続いていた最高記録の更新にも歯止めがかかった。昨年4月から約16.2%上昇した家賃相場は今年8月の33.56ドルで天井を打った。香港理工大学建築及房地産学系の許智文・教授は、転売から賃貸に転向する物件オーナーが増え、本土の学生による賃貸ラッシュも過ぎたことを挙げ、家賃相場は年内に5%低下すると予測している。

 差し当たり家賃や物価の高騰にあえぐ市民の生活負担は緩和される見込みだが、経済の低迷はますます深刻化しそうだ。(2015年11月6日『香港ポスト』)

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