「香港が中国本土の社会主義転覆を図る基地になってはならない」。全国政協主席に就任した中国共産党中央政治局常務委員の兪正声氏は3月6日、香港・マカオの政協委員と会談した際にこう強調し、英国植民地旗を掲げたデモ隊などを批判した。2017年の行政長官選挙に向けて、愛国愛港勢力の政権掌握に努める姿勢を明確にした発言だ。
昨年11月の中国共産党第18回全国代表大会(18大)以降、中央が対香港政策を引き締めている。胡錦涛・前総書記は報告で香港に対して「外部による干渉を防ぐ必要がある」といった表現を盛り込み、国務院香港マカオ弁公室の張 暁明・副主任(現・中央人民政府駐香港特区連絡弁公室主任)は『文匯報』に寄せた論説で「選挙に介入するために外部勢力が反体制派を育成している」と批判。国家分裂行為などを禁じる法の制定を急ぐ姿勢を見せた。
デモとセントラル占拠が刺激
対香港政策引き締めの背景としては、昨年の愛国教育反対運動や植民地旗を掲げたデモが中央を刺激したためとの見方が大勢だ。それに加え、行政長官と立法会議員の全面普通選挙実現に向けて、民衆動員によるセントラル占拠行動(※)が構想されていることが新たな刺激要素となっている。
尖閣諸島問題などで米国が中国包囲網戦略を積極化しているため、香港が外国勢力の反中拠点として利用されるのを中央が懸念している。全人代元香港代表の呉康民氏はこうも指摘する。反対勢力は17年に普通選挙化する行政長官選挙を突破口とするため、この数年の議会や選挙での闘争はさらに激化するとみる。「仮に中央が受け入れられない行政長官候補が当選した場合は任命しないだろう」と述べている。
予備選挙を示唆
香港の普通選挙は全人代常務委員会が07年12月、「17年の行政長官選挙は普通選挙の実施が可能であり、行政長官の普通選挙が実現した後に立法会の全議席を直接選挙で選出することが可能である」との決定を下した。だが、3月10日付『明報』で中央に近い関係者が予備選挙を設ける可能性を示し、議論が巻き起こっている。全国政協の陳永棋・常務委員(香港中華厰商連合会名誉会長)は、中央と敵対する人物が行政長官に選ばれれば立憲政治の危機に陥るため、それを防ぐため候補者は選挙委員による指名の後に予備選挙を経て決めるべきと説明した。
これに対して李柱銘(マーチン・リー)元民主党主席らは、予備選挙が設けられたら民主派の候補者を本選から排除することとなり、過去の行政長官選挙より後退するなどと批判。全面普通選挙の早期実現を掲げる民主派の新たな組織も3月21日に発足した。名称は「真普選連盟」で、10年の政治体制改革案の審議に向けて発足した終極普選連盟に代わるものだ。公民党の鄭宇碩・前秘書長が召集人を務め、セントラル占拠に参加する可能性も示唆している。
〜※〜※〜※〜
(※)セントラル占拠は香港大学法学部の戴耀廷・副教授が1月末に『信報』の論説で提唱したもの。構想の内容は①市民が支持できる政治体制改革案を1万人を集めて討議②香港大学民意研究計画のシステムで住民投票を行い改革案の支持を取り付ける③政府がこの改革案を無視した改革案を提出した場合、立法会区議会第2枠(香港全域が選挙区)で当選した民主党の何俊仁(アルバート・ホー)氏が辞職し、補欠選挙に持ち込む。民主派候補が当選すれば市民は政府案を拒否したとみなす④なおも政府が譲歩しない場合は市民を動員しセントラルを占拠する——といったもの。