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2015.12.29

2016年の香港経済 貿易・観光・小売り・不動産は低迷

 国際通貨基金(IMF)は昨年12月15日に発表したリポートで、香港経済がこれから直面する試練として(1)米国の利上げ(2)中国経済の減速(3)香港の住宅相場の下振れリスク――の3つを挙げた。2016年の香港の域内総生産(GDP)伸び率が1%にとどまると予測する金融機関もあるなど、今年の香港経済の先行きはおおむね悲観的にとらえられている。

 IMFのリポートは利上げペースが予想より速いとみており、香港の市民と企業にとっては債務償還コストが上昇し個人消費と企業の支出が抑えられる可能性があると指摘。特に市民の関心の高い住宅相場は利上げによって価格低下と取引減少を招き、消費力に影響するという。このため不動産市場の過熱抑制策を緩和することなどを提唱した。一方、中国の金融と実体経済の活動は減速しているものの、コントロール可能な状況であるため香港経済への打撃は大きくないとみる。今年の香港のGDP伸び率は2.5%と予測している。

 UBSが昨年9月に発表したリポートで今年のGDP伸び率を1%と予測し注目されたが、他の金融機関が昨年12月までに発表した予測も同様に悲観的なものが多い。ゴールドマン・サックス中国経済アナリストの鄧敏強氏は、香港経済に対する下振れ圧力として、米国の利上げ、住宅価格の下落、地場消費の減退を挙げたほか、米ドル相場上昇に伴う香港ドル相場上昇、中国経済の減速、来港者減少、高齢化などの構造的問題もあり、GDP伸び率は1.6%に鈍化すると予測。また株式市場の見通しでは、今年はハンセン指数が24000ポイント(昨年12月4日終値に比べ7.93%高)、ハンセンH株指数が10500ポイント(同6.77%高)に達すると予測している。

 モルガン・スタンレーはリポートで、中国経済の減速と香港の利上げによって香港経済は3年連続の鈍化となり今年のGDP伸び率は2.1%に低下すると予測した。クレディ・スイスが発表したリポートでは、貿易、小売り、観光、不動産といった支柱産業ではいずれもマイナス影響が続き、香港経済は「長い冬の時代に入る」と警告。過去15年の年平均GDP伸び率は4%だったが、今後5年は2.2%にとどまるとみている。

 米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを決定したのを受け香港金融管理局(HKMA)は昨年12月17日に基本利率を引き上げたが、各銀行には香港ドル金利を引き上げる動きは見られていない。恒生銀行の薛俊昇・首席エコノミスト代行は「市場は早くから米国の利上げに対する準備を行っており、利上げペースも緩慢とみられるため、利上げ後に香港ドルの金利と為替相場に大きな変化はみられていない」と指摘。このため今年のGDP伸び率は2.4%と予測している。

 そのほかの金融機関によるGDP伸び率予測は、ドイツ銀行が3%、野村証券が2.3%、バークレイズとJPモルガン・チェースが2.2%、シティバンクとバンクオブアメリカ・メリルリンチが2%などとなっている。

 香港総商会は昨年12月8日、ビジネスの先行きに関するアンケート調査の結果を発表。調査は10月に会員企業を対象に行われたもので、408件の回答を得た。16年の香港の経済成長について総商会はGDP伸び率2~3%、物価上昇率は約2.5%と予測しているが、アンケート調査ではGDP伸び率「0~2%」が48.4%、「2~4%」が44.2%だった。17年については55.3%が「2%以上」と予測している。景気動向を踏まえた今後12カ月の昇給率については「5%以下」が51.7%、「5~10%」が10.8%、「10%以上」が1.4%、「昇給なし」が34%、「減給」が2.2%となっている。「昇給なし」の割合は前年の29・2%より拡大し、11年以降で最大。全体的に昇給率は過去数年より低下しており、「減給」は前年の0.3%から拡大した。

GDP伸び率予測1~3%

 香港経済低迷の主な要因である貿易と小売りの不振はまだ好転の兆しがみられない。特区政府統計処が発表した昨年10月の貿易統計によると、輸出総額は前年同月比3.7%減の3196億ドルで、6カ月連続の減少。1~10月の輸出総額は前年同期比1.7%減、輸入総額は同3.6%減となっている。香港港口発展局が発表した昨年11月のコンテナ取扱量は前年同月比8.1%減で、14年7月から17カ月連続の下落となった。1~11月の累計では前年同期比8.9%減。通年では上海、シンガポール、深セン、寧波に続く世界5位となり、前年の4位からさらに後退する見込みだ。

 香港貿易発展局(HKTDC)の関家明・研究総監は昨年12月16日の記者会見で「世界経済には多くの試練があるものの、香港の輸出企業は過度に悲観すべきではない。世界貿易は徐々に回復するとみられ、価格は低下するが量は増える状況が表れる」と述べ、今年は輸出総額がゼロ成長となるものの、輸出量は2%の伸びになると予測している。

 一方、小売りについては特区政府統計処が発表した昨年10月の小売り統計によると、小売業総売上高は前年同月比3.0%減の372億ドル(速報値)で8カ月連続の減少となった。売上高が減少したのは主に宝飾品・時計・高級贈答品の同17.0%減、燃料の同13.7%減、電器・撮影器材の同10.9%減などだ。

 星展銀行(DBS)傘下の星展唯高達証券が昨年12月に発表した小売業界の見通しでは、今年も円安とユーロ安が続くため中国本土からの来港者も引き続き減少すると指摘。特に有名ブランドや時計などのぜいたく品への影響は顕著で、小売業界にとって「冬の時代」は今年も続くと予想している。業界にとっては地場の消費が支えとなるため、一部の小売店は繁華街から大型住宅街に移るとみる。今年通年の香港の小売り総額は前年比3%減と予測した。

 シティバンク研究部の雷智顔・副総裁も昨年12月10日に発表したリポートで「来港者減少は小売業がもはや香港の雇用創出の原動力とはならないことを意味している」と指摘。香港のGDPに対する小売業の貢献率は8%、就業市場の17%を占めることから失業率の上昇圧力となり、失業率は昨年の3.3%から今年は3.7%に上昇するとみる。

 HKMAの陳徳霖・総裁は昨年12月17日、「香港も米国に合わせて金利を正常化すれば住宅市場の健全な調整と発展に有利」と述べたものの、利上げによる住宅相場の下落はさらなる景気悪化を招くと懸念されている。一方で香港の銀行は流動性が高く短期的には利上げ圧力はないため、利上げは年末まで先送りされるとの見方もある。経済成長の新たな原動力を確保するための猶予期間といえそうだ。(2016年1月1日『香港ポスト』

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