香港では両親ともに中国本土籍の「双非」(※)と呼ばれる児童への就学補助金の支給が前年比4倍に急増している。本来、就学補助金は低所得家庭の児童を対象に支給するものだが、双非児童の多くは経済的に恵まれており、不正受給の可能性も指摘されている。また大型連休中、入園申請書を受け取るために双非児童の保護者が幼稚園前に徹夜で列をつくるなど、学校の入学枠をめぐる問題もさらに深刻化。香港人保護者の不満はピークに達し、抗議デモが発生した。「中港のあつれき」は解決策のないまま深まりをみせている。
補助金受け高級車で送迎
香港教育局の資料によれば、広東省の深圳市などから香港に越境通学する双非児童は2010/11年の9899人から2012/13年は16356人と70%近く増加した。同時に教科書と通学費の補助金を受給する双非児童は各774人から3535人、549人から2666人と約4倍に増加した。
本土とのボーダーに近い新界・北区の鳳渓第一小学校の校長は、教科書代と通学費、給食費の補助は本土の保護者にとって大きな魅力になっていると語る。この学校では、10年前は越境通学の児童は全校中30人余りだったが、現在は400人と10倍近く増加。今年は昨年の倍に当たる60人の双非児童が小学一年生として入学した。また別の小学校の校長も、双非児童の保護者は入学前に必ず補助金の申請方法を尋ねると語っている。この学校でも今年入学する双非児童はほぼ倍に増加。うち半数は補助金の申請をしたという。
その一方で、「本当に必要とする香港の児童には補助金が支給されていない」「双非児童の親は高級車で子供を送り迎えし、最新の携帯を持っている」「本土で仕事をしているのに、政府は調べられない!」と不正受給を指摘する声が上がっている。双非児童の保護者の中にはビルごと不動産を所有し、賃貸収入で悠々自適に暮らす者もいるというが、本土での収入を調べるのは特区政府にも難しいようだ。
香港生まれの子供には香港籍が与えられることから、近年は生まれて来る子供により良い教育を受けさせたいと本土妊婦の香港での出産が急増した。香港籍の子供は本土では外国人扱いとなり、学費も高額になるという事情も手伝い、就学年になった子供たちがボーダーに近い香港の学校に押し寄せている。そのため新界の一部地区では香港人児童が学区内の学校に入学できず、自宅から遠い学校に通わざるを得ない事態となっている。
入園申請書に数百人が列
小学校だけではない。幼稚園にも双非児童が押し寄せ、香港人児童の入園枠を圧迫している。10月1日から始まった国慶節(中国の建国記念日)の大型連休中、新界地区の数カ所の幼稚園前には本土籍の保護者や仲介業者ら数百人が行列を作った。目的は入園のための申請用紙の受け取り。徹夜で並ぶ人が多く、警察が出動するなど混乱を来した所もあった。
これにいきどおった香港の保護者ら数百人が10月6日、新界地区で抗議のデモ行進を行った。保護者らは本土の仲介業者が並んで申請用紙を受け取ることに反対し、香港人児童を優先的に入学させるよう求めた。香港の保護者の多くは、香港の行政サービスや資金や物が双非児童にばかり回ることに危機感を覚えており、産婦人科のベットも粉ミルクも入学枠も足りなければ、しばらくは次の子供を生む気になれないと語る人もいた。
だが、抗議デモの翌日以降も幼稚園前には本土保護者が列を成した。10月8日早朝には上水の鳳渓幼稚園で2000人分の申請用紙が配られたが、前日午後の段階で双非児童の保護者500人がすでに並んでいた。息子のために連休を利用して河南省から来たという双非児童の父親は、業者に頼めば数千元で代行して用紙を受け取ってくれるが、自分で並びたかった。新界地区の天水囲、屯門、上水など十カ所の幼稚園で並んで申請書を手に入れたと明かした。中港のあつれきについては、特区政府が香港人の需要を満たせないことに問題があると批難。「子供に罪はない」と語り、双非児童に対する香港でのマイナスイメージが子供の成長に影響することを懸念した。男性は、息子の入園が決まれば通園に便利な深圳市に引っ越すつもりだという。10月7日、8日付け『星島日報』、10月8日付け『香港経済日報』が伝えた。
※「双非」とは両親ともに本土籍の児童を指す。両親の一方が本土籍、もう一方が香港籍の児童は「単非」と呼ばれる。