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2016.05.13

労働者保護や貧困対策 困難続く民生改善

 5月1日は労働者団体によるメーデー恒例のデモ行進が複数行われた。最も規模が大きかった香港工会連合会(工連会)のデモは主催者発表で2900人余りが参加、法定労働時間の制定などの要求が叫ばれた。労働者の権利保護や貧困対策などは梁振英・行政長官が就任前から公約に掲げていたものだが、そうした民生改善策の多くは困難に直面している。

 梁長官が打ち出した貧困対策の1つである「低所得在職家庭手当」の申請受け付けが5月3日から始まった。これは児童を持つワーキングプアーの家庭を優先的に支援するもので、就業継続を奨励し生活保護のセーフティーネットに依存するのを防ぐことを目的とする。世帯収入中位数の半分以下の家庭で在職・労働時間の条件を満たせば毎月の基本手当600ドルまたは高額手当1000ドルを支給。世帯収入中位数の半分以上だが60%未満の場合はその半額を支給。児童がいる場合は1人につき毎月800ドルまたはその半額が加算される。手当は昨年11月分までさかのぼって支給される。

 同措置は梁長官が行政長官選挙時に検討を公約し、2014年の施政報告に実施が盛り込まれ、昨年1月に立法会財務委員会で予算が認められた。実現にこぎ着けた梁政権の代表的な貧困対策だが、その他の民生改善策の多くは順調に進んでいるとはいえない。

 デモでも掲げられた法定労働時間の制定について検討する「標準工時委員会」は4月25日、第2段階の諮問を開始した。諮問期間は3カ月で、(1):立法で雇用契約に労働時間と超過勤務手当などを記すことを規定。(2):立法で低所得労働者の超過勤務手当などを制定。(3):(2)を基礎として(1)も推進する。(4):(2)も(3)も推進せず、業界別に自主ガイドラインを制定するなど他の措置を検討――の4方向について意見を募る。

 諮問文書では(2)についてアナリストの試算を引用し、月収2万5000ドル以下の労働者(112万人)の法定労働時間を44時間、超過勤務手当を1.5倍とした場合、全業界の年間給与コストは216億3000万ドル増加、1万社余りが赤字に転落、物価上昇率は4%に達するなどの例を挙げた。

 だが委員会の労働側代表は会議で重大な食い違いがあるとして先にボイコットを表明。代表を務める工連会の呉秋北氏は、諮問文書は認めず、諮問にも参加せず、800余りの労働組合に対しアンケート調査を行い11月に政府に提出する方針を示した。

 低所得層支援策を検討する扶貧委員会が4月25日、貧困ラインの算出方法を変えないと決定したことも波紋を呼んだ。政府はかねて貧困ライン算出で公共住宅福利を分析に含み、住宅コストを差し引いた可処分所得で貧困を線引きすることなどを提案。これによって貧困人口は大幅に減少する見込みだったが、委員会は変更するひっ迫性はないとして算出方法の現状維持を決定。立法会選挙や行政長官選挙を控えているため、低所得層の支持を失う懸念から政府が提案を取り下げたとの憶測が浮上した。林鄭月娥・政務長官は26日、変更案について「公共住宅住民を貧困層から外そうというわけではなく、一般住宅住民の貧困状況を明確化させることが狙い」と説明したほか、強硬に変更したいわけでもないと述べ、選挙への配慮を否定した。

 公共住宅については3月に賃貸型公共住宅の入居資格の条件緩和が提案された。収入上限を平均8.9%、資産上限を平均2.7%引き上げ、収入上限は4人世帯で2万6690ドル、1人世帯では1万970ドルとなる。これによって民間住宅を賃貸しているが公共住宅の入居申請資格を持つ家庭は8万5000世帯増えて14万7000世帯に拡大する。昨年末現在で公共住宅の累積入居申請は約29万件で、一般申請者の平均待ち時間は3.7年。すでに政府目標の3年を大きく上回っているが、申請条件を緩和すればさらに圧力が増す。

財界+民主派で梁政権打倒

 近年の政府による積極的な土地放出によって、第1四半期の民間デベロッパーによる住宅物件の着工数は前期比で約5倍に当たる1万3300戸に達した(特区政府運輸及房屋局)。1万4200戸だった昨年通年分に匹敵する。今後3~4年の潜在供給量は9万2000戸となり、過去最高を記録。年間平均2万3000~3万1000戸となり、供給過剰も懸念される。
 不動産評価などを行う特区政府差餉物業估価署が発表した3月の住宅価格指数は270.2で、2月に比べ1.3%下落。6カ月連続の下落となり、14年末のレベルに戻った。ピークに当たる15年9月の306.1に比べると11.7%低下している。

 住宅相場が下落する中、財界では梁政権に対する不満が高まっている。立法会の曽鈺成・議長は4月28日付『m730』に寄稿し、9月の立法会議員選挙、12月の選挙委員会選挙は来年3月の行政長官選挙の前哨戦となるため、親政府派内では行政長官候補の各陣営で激しく敵対する可能性があると指摘した。

 前回の行政長官選では選挙委員1200人のうち梁長官を支持したのは689票。残りの票のうち財界が300票余り、民主派が約200票を握っている。かねて梁政権に反発している自由党(財界基盤)の田北俊・名誉主席は4月初め、「より多くの反梁政権派が選挙委員に当選するのを望む」と発言。一貫して梁長官の辞任を求めている民主派も、来年の行政長官選では独自候補を擁立せず梁長官以外の親政府派候補を支持する構えで、梁長官の続投を望まない親政府派が民主派と手を組めば対立候補が当選する可能性もある。

 立法会で4月13日、今年度財政予算案に関する審議が始まり、一部民主派議員が2000項目余りの修正案を提出し議事妨害を行う姿勢を示した。だが民主党は議事妨害に参加せず支持票を投じると表明、梁長官が就任してからの予算案で初めてのこととなった。住宅・医療問題などで市民の要求に応えていると評価したほか、曽俊華(ジョン・ツァン)財政長官の提示した方向性は民主党の立場に近いと説明。公民党議員も最近の世論調査で曽長官が最も支持が高いと発言するなど、民主派による曽長官への評価が目立つ。このため民主派は行政長官選で、財界から待望されている曽長官の立候補を後押しするともみられる。

 特区政府選挙事務処が発表した立法会新界東選挙区の補欠選挙での各投票所の集計と人口調査での世帯月収中位数を合わせて分析すると、主に富裕・中流層は公民党候補(民主派)に、低所得層は民主建港協進連盟候補(親政府派)に投票したことが分かった。第1四半期に逆資産効果となった住宅ローンは1432件に上り、前期比で15倍の激増。逆資産効果は大規模デモが発生した03年にも政府への不満の一大要因となったが、再び同様の状況が繰り返されるかもしれない。(2016年5月13日『香港ポスト』

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