梁振英・行政長官は3月24日、次期行政長官選挙への出馬を示唆する発言を行い、政界で注視されている。「セントラル占拠行動」の処理で中央政府の評価を得たことなどで自信を深めているようだ。セントラル占拠が再び発生しても「市民は二度と同情しない」や、香港市民に対して来年の立法会選挙で民主派議員を排除すべきと呼びかけるなど、世論的に不利な状況にある民主派に対し強気な姿勢が目立っている。
先ごろ「民主派が普通選挙案を否決すれば梁長官の続投に有利になる」との権威消息筋情報が報じられ、民主派は梁長官にとって最大の支援勢力だと取りざたされた。梁長官は行政長官への当選から3年を迎えた24日、この報道に対する見解を聞かれ、「いかなる可能性も排除しない。次期行政長官選挙への出馬問題は今後のことだ」と答えた。過去1年余り、続投に関して正面からのコメントを避けていた梁長官が続投の意思があることを示したのは初めて。だが1月に週刊誌で「梁長官が続投の意思はないことを中央人民政府駐香港特区連絡弁公室に表明した」と報じられた際に否定する声明を発表している。これも続投の意思があるとのメッセージとみられている。
翌25日、梁長官はクレディ・スイス主催のフォーラムで講演し「一部の民主派議員が議事妨害で政府のインフラ建設プロジェクトを阻んでいる」と批判、有権者に「来年の立法会選挙で投票によってこれら議員を議会から排除すべき」と呼びかけた。さらに昨年の「セントラル占拠行動」の背後にいた議員や支持した議員は今年の区議会選と来年の立法会選で「懲罰を受ける」と述べたほか、政府は常に占拠行動の再発に備え、「再び占拠行動が発生しても市民は二度と同情しない」と警告した。
さらに26日の立法会答弁で、多くの世論調査では香港基本法と全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会の決定に基づく普通選挙の実現を支持する市民が多いと指摘し、「議員は世論に従うべきで、500万人の香港人の投票権を奪ってはならない」と述べた。社会には以前、強硬に迫れば中央が全人代の決定を撤回し基本法の規定を放棄するとの考えがあったことを挙げ、「今日、不可能であることが分かったはず」と語った。
梁長官の昨今の発言に対し公民党の梁家傑・代表が「好戦的だ。社会の分裂に対する懸念が足りない」と批判したほか、次期行政長官を狙うライバルと目される葉劉淑儀(レジーナ・イップ)新民党主席も「強気な姿勢を示すことは、むしろ相手を挑発する」と戒めた。親政府派関係者は「政府は内部の世論調査を通じ、占拠行動と議事妨害が多くの市民の反感を買っていることを把握している」ことが強気な発言につながっているとみている。
特区政府政制及内地事務局の劉江華・副局長は16日、普通選挙案の採決に向けたスケジュールを明らかにした。政治体制改革の第2回公開諮問報告書を4月半ばに発表。その中には決議案の内容も含まれ、政府は5月に正式に立法会に提出することを決定したという。6~7月に採決する見通しだ。劉副局長はまた、2017年の行政長官普通選挙が実現した後に立法会の普通選挙について検討するため、16年の立法会選挙では職能別選挙枠と直接選挙枠の変動はないと説明した。
だがこれより先の9日、民主派議員27人は立法会で普通選挙案を否決する連名の声明を再度発表した。声明は全人代常務委員会の昨年8月の決定に基づいたいかなる政治体制改革案も否決するというもの。今回の声明は普通選挙を実現するため政府支持に回ろうとしている民主派議員がいるからとの見方があるが、公民党の梁代表はこれを否定。さらに社会民主連線の梁国雄・主席は「寝返る民主派議員がいれば、いい死に方はしない」と脅した。
民主派、対話の機会つぶす
中央と民主派の間では対話が計画されていたが、この声明を受けて取り消しとなった。全人代常務委員会の李飛・副秘書長(基本法委員会主任)は4月初めに香港で開催される基本法公布25周年の記念イベントに出席し、その際に民主派議員らと会談する予定だった。公民党の湯家驊・議員は、李主任のほか国務院香港マカオ弁公室の副主任も来港することや、水面下で対話を手配し、対話が可能な者だけが出席する予定だったことを明らかにしている。
だがある民主派議員がメディアに公表し、ある議員は対話で全人代常務委の決定撤回を要求すると提案したことなどで議論になったという。消息筋は、民主派議員らが発表した声明で全人代常務委の決定を違憲と指摘したことが中央を刺激し、これが李主任の来港取り消しの主な理由だとみる。また全国政協の陳永棋・常務委員は「民主派のうち穏健派や理性派は急進・過激派に縛られている」と指摘した。
こう着した局面を打開すべく香港大学民意研究計画の鍾庭耀・総監(教授)は12日、特区政府が普通選挙案を立法会に提出した後に住民投票を行うことを提唱した。民間による住民投票で3分の2以上の市民が改革案の可決に賛成した場合、民主派議員も賛成に回ることを検討すべきという。だが公民党の梁代表は昨年6月に住民投票を行ったとして鍾教授の提案を否定。一方、自由党の鍾国斌・主席は「多くの世論調査で普通選挙案の可決に賛成する市民の方が多いため懸念はない」と肯定。だが袁国強・司法長官は「大多数の市民が改革案を支持しても民主派は否決すると述べていたので、住民投票の意義はあるのか」と疑問視した。
香港基本法委員を務める香港大学法律学院の陳弘毅・教授も19日、改革案の立法会での採決に向け、大規模な世論調査や公開討論を提唱した。陳教授は信用のある元首席判事または退職判事に政府が委託して大規模な世論調査を実施、併せてテレビで公開討論を行い、市民が改革案を支持しているかどうかを把握し民主派は参考にすべきと提案した。これに対し特区政府政制及内地事務局の譚志源・局長は「必要ならば学術機関に委託して世論調査を行う」とその可能性を示唆。ただし「民主派が世論調査の結果に従うのは難しい」とみる。テレビ討論については反対する姿勢を示した。一方、民主党の劉慧卿・主席は「反対が多ければ中央に政治体制改革プロセスのやり直しを要求すると特区政府が承諾しない限り、世論調査の意義はない」と消極的な姿勢を示した。
全人代会議が開催されていた3月6日、張徳江・全人代委員長は全人代香港代表と会談した際、「普通選挙案が否決されれば改革プロセスがやり直しになると思っている人がいるが、それは違う」と述べ、普通選挙は「チャンスを失えば二度と来ない」と警告した。政府にとっては行政長官がいつまでも民主派から「1200人の内輪選挙で選ばれた」と攻撃されるのを避けるためにも、普通選挙を実現させたいのだろう。(2015年4月3日『香港ポスト』)