香港の第1四半期の実質域内総生産(GDP)伸び率は2.1%となり、2期連続で鈍化した。輸出低迷が続いているほか、昨今の観光・小売業の不振が追い打ちをかけた。一方で隣接する深セン市は近年、約8%のGDP伸び率を維持しており、今年通年のGDPは香港を上回ることが見込まれている。中国社会科学院が先に発表した都市競争力ランキングで香港はトップの座を深センに譲るなど、香港と深センの関係は逆転しつつある。
特区政府が5月15日に発表した2015年第1四半期のGDP伸び率は前年同期比で2.1%となり、前期(14年第4四半期)の2.4%から鈍化。2期連続の鈍化となる。前期比では0.4%で、前期の0.2%からわずかに拡大した。主な原動力は内需で、外需が弱いため輸出はわずかな伸びにとどまり、観光業の悪化に伴ってサービス輸出も落ち込んだ。これら状況や香港経済が依然多くの不透明な要素に直面していることを考慮し、通年伸び率予測は2月に発表した1.0~3.0%に据え置いた。
一方、輸入インフレの緩和とエネルギー価格の低下などから物価上昇の抑制は予想を上回った。第1四半期の消費者物価指数(CPI)伸び率(基本物価上昇率)は2.7%と前期の3.3%から縮小。通年伸び率予測は2月に発表した3.0%から2.7%に下方修正した。
香港上海銀行(HSBC)が発表した4月の香港購買担当者指数(PMI)は48.6で、3月の79.6から1.0ポイント下落。2カ月連続で景況判断の目安となる50を下回り、下落幅は昨年10月以降で最大となった。新規受注指数、産出指数、就業指数はいずれも下落し、香港の民間企業の経営環境が悪化したことを反映している。中国本土からの新規仕事量は9カ月連続で下落した。5月の中国PMIは49.1(速報値)で、4月の修正値48.9から0.2ポイント上昇。ただし3カ月連続で景況判断の目安となる50を下回った。産出指数は48.4で、過去5カ月で初めて50を下回り、過去13カ月で最低となった。また新規輸出指数は大幅に下落して46.8となり、過去23カ月で最低となった。
香港の貿易動向に大きな影響を与える中国進出口商品交易会(広州交易会)が5月5日に閉幕したが、成約高と来場者数はともに4回連続の減少となった。今回の輸出成約高は1720億9600万元(約280億5600万米ドル)で、前回(昨年秋)に比べ3.97%減、前々回(昨年春)に比べ9.64%減。海外からの来場者数は18万4801人で、前回比0.7%減。欧州連合(EU)、日本からの来場者が減少したほか、香港からも同8.72%減とまれにみる大幅な減少となった。主要地域のうち欧州は同17.88%減と大幅に減少したものの、米大陸は同6.02%増、アジアは同2.76%増、アフリカは同2.86%増だった。
港湾コンテナの取扱量で香港は2013年から深センに抜かれ世界4位に後退した。香港港口発展局が発表した4月のコンテナ取扱量(見込み)は前年同月比11.7%減の170万1000TEU(20フィート標準コンテナ換算)。3月の同13.5%減から減少幅は縮小したものの、14年7月から10カ月連続の下落となった。1~4月の累計では前年同期比8.9%減の659万6000TEUだった。一方、深セン港口協会によると、深センの4月のコンテナ取扱量は189万115TEU、1~4月の累計では同7.44%増の760万9259TEU。すでに香港を上回っており、香港は今年も深センの後じんを拝することになりそうだ。
競争力、香港がトップ譲る
中国社会科学院が5月15日に発表した「2015年中国都市競争力青書」で、香港は12年維持してきたトップの座を深センに譲ることとなった。青書は全国294都市を経済、住みやすさ、ビジネスなど9指標で競争力を比較。総合経済競争力のランキングでは深センが初めて1位となり、2位以下は香港、上海、台北、広州、天津、蘇州、北京、マカオ、無錫と続く。
香港は住みやすさやビジネスのやりやすさではトップとなったが、リポートは「金融、貿易、海運、観光、専門サービスの5大産業に過度に依存し、新興産業への関心が足りない」として、土地不足や不動産価格の高騰が新興産業の発展を阻害していると指摘。転身・高度化や中国本土との協力強化、社会の対立解消を促した。一方で深センはイノベーション力などが評価された。
中国共産党深セン市委員会の馬興瑞・書記(党中央委員)は5月21日、深セン市の党代表大会で同市着任後初めての活動報告を行った。馬書記は多くの分野で深センと香港の協力強化を強調したほか、深センは「一帯一路」構想と自由貿易区の開発で重要な役割を果たさなければならないと指摘。前海と蛇口が中国の自由貿易区開発の新たなシンボルとなるため、インフラ建設を加速し、さらに現代サービス業の開放を拡大すると述べた。
また馬書記は深センのGDPを2020年までに約2兆6000億元に引き上げるとの目標を提示。年間平均で8%余りの伸び率を維持することとなる。深センの2014年のGDPは前年比8.8%増の2581億米ドル(1兆6000億元余り)で、香港の2892億米ドルに迫った。近年の平均伸び率は深センが8%、香港が3%であることから15年のGDPで深センが香港を上回るのは確定的とみられている。
深センは4月21日に設立した中国(広東)自由貿易試験区に含まれ、今後も飛躍が期待される。同自由貿易区は広州市南沙、深セン市前海・蛇口、珠海市横琴からなる116.2平方キロメートル。本土と香港・マカオの深い経済協力を推進するとともに、「21世紀海のシルクロード」の重要ハブとして位置付けられ、3~5年の改革試験を経て高度な国際標準の法整備や投資・貿易環境を備えることを目指す。特に人民元建てで越境の決済、投資、融資、株式上場などを推進する金融分野での開放・革新措置が注目されている。香港・マカオにサービス産業を開放し、金融サービスの革新を図るなど経済貿易緊密化協定(CEPA)をレベルアップしたものといえる。
梁振英・行政長官は1月に発表した施政報告(施政方針演説)で広東省自由貿易試験区に触れていた。第13次5カ年計画(2016~20年)に呼応するため、特区政府はすでに中央政府に提案を出したことや、広東省政府と広東省自由貿易試験区について積極的に協議することに言及。試験区となる広州・南沙、深セン前海、珠海・横琴の計画・開発で香港企業にとって最良の優遇政策と最大の発展の機会を得られるようにするのが狙いだ。深センとは証取の相互乗り入れなど、金融分野での連携強化も続々と推進されている。かつて深センが香港の影響で発展したのとは一転し、今や香港が深センの発展にあやかる時代となった。
(2015年6月5日『香港ポスト』)