5月1~3日のメーデー連休には中国本土からの来港者数が昨年の同連休に比べ2けた増となったものの、消費は芳しくなかったようだ。出入境者数が増加した割に宿泊客は少なく、宝飾品店や薬局兼乾物屋では売り上げが減少するなど、小売業界は恩恵を受けられなかった。並行輸入活動への抗議を掲げた過激なデモや為替動向の影響により旅行者の香港離れが見られ、観光振興の強化も叫ばれている。
観光プロモーションは不発
香港政府観光局(HKTB)は4月27日~5月28日、「開心・著数大行動」と銘打った観光プロモーションを展開している。昨年の「セントラル占拠行動」で影響を受けた観光・小売市場を回復させるために財政予算案で打ち出された予算8000万ドルのうち2350万ドルが投じられた。参加店舗は約1万4500店に上り、旅行者のみならず香港市民も対象となる特典も多い。だが現在のところ顕著な効果は見られていないようだ。
入境処の統計ではメーデー連休3日間の入境者数は前年同期比23.4%増の134万4006人、来港者数は同11.8%増の58万2059人で、うち本土からが同13.8%増の44万1568人、海外からは同6.1%増の14万1491人。来港者数が2けたの減少だった4月の清明節連休からは好転した。本土からのツアー客も同10%減との予測に反し同12%増の1日平均320組。ただし1組当たりの人数は昨年の約30人から約20人に減少した。
香港旅遊業議会の胡兆英・主席は「本土住民の多くは陸路で香港に入った後に香港国際空港から日本や韓国に向かった」と指摘。多くの本土住民にとって香港は海外旅行への中継点に過ぎないことや、初めて香港を訪れるわけでもなければ消費力は低いとみて、香港を素通りする旅行者の増加に警鐘を鳴らした。連休中に空港から出境した本土住民は同19%増の4万1177人だった。
出入境者の総数は昨年と変わらないが宿泊客は減少したとみられる。ホテル業界団体である酒店業主連会の李漢城・総幹事は、3つ星ホテルの5月1~2日の予約状況は7割程度だったことを明らかにしている。香港餐飲連業協会の黄家和・会長は、海鮮で有名な西貢・長洲を除けば連休中のレストランの売上高は同15%減と推算。また宝飾品店の売上高は同10%以上の減少、薬局兼乾物屋は同30%減と見込まれている。
昨今の観光・小売市場の不振は3月の統計からも明らかだ。HKTBが発表した観光統計によると、3月の来港者数は前年同月比8.7%減の延べ440万5298人。うち本土からの旅行者は同10%減の延べ324万825人。本土以外の国・地域では短距離市場が同6.9%減、長距離市場が同0.2%減、新市場が同10.3%減といずれも減少した。1~3月累計の来港者数は前年同期比4.9%増の延べ1542万685人、うち本土からの旅行者は同7.7%増の延べ1228万3070人となっている。
特区政府統計処が発表した3月の小売り統計によると、小売業総売上高は前年同月比2.9%減の384億ドル(速報値)だった。売上高が減少した項目を挙げると、宝飾品・時計・高級贈答品の同18.6%減、燃料の同16.4%減、靴類・衣料装飾品の同11.7%減、その他消費財の同9.4%減などで、特に観光客向け商品の売上高減少が著しい。3月の消費者物価指数(CPI)伸び率は前年同月比4.5%で、2月の同4.6%から縮小した。特に耐久品が同マイナス5.5%だった。
宝飾品業界では店舗閉鎖
本土からの旅行者に人気の化粧品店、莎莎は5月12日、今年度第4四半期(1~3月)の業績を発表した。同期の売上高は前年同期比2.6%減の22億4300万ドル、香港・マカオの卸・小売り売上高は同2.4%減の18億3700万ドル、既存店売上高は同0.9%増。販売件数は同2.1%増だが、1件当たりの平均金額は同4.1%減。本土からの旅行者に対する販売件数は同12%増だったが、1件当たりの平均金額は同13%減だった。同社は、香港の小売市場は第3四半期からの比較的弱い消費ムードが続き、第4四半期はこれに加えて多くの外国通貨に対し為替相場が上昇したため、本土住民の香港に対する魅力が削がれ、同時に地元住民の消費意欲にもマイナスになったと分析している。
宝飾品大手の周大福と六福は旅行者による消費減退を受け、店舗の閉鎖や拡大凍結の方針を打ち出した。周大福の黄紹基・社長は5月8日、昨年下半期から来店者が急減し、最近回復してきたものの依然として前年同期比30%減であることを明らかにした。来店者減少の原因として「最近の香港社会の雰囲気から、本土住民が歓迎されていないと感じる」と指摘。このため今年も新店舗は開設せず1~2店舗閉鎖する考えで、年内に契約が切れるピーク店と銅鑼湾の1店舗を閉鎖するという。
六福の黄偉常・会長も同日、今年に入ってからの来店者数は昨年10月のセントラル占拠の時期にも劣るため、「店舗拡大計画は棚上げする」と表明、賃貸料が引き上げられれば撤退することも示唆した。
このように観光・小売市場が打撃を受けているとはいえ、世界経済フォーラム(WEF)が5月7日に発表した「旅行・観光競争力リポート」では香港のランキングが上昇した。同リポートは2年に1度発表され、世界141カ国・地域を対象に政策、環境、交通インフラ、文化遺産など14項目で観光業の競争力を評価。香港は2013年の15位から13位へ2ランク上昇した。ただしアジアでは日本(9位)、シンガポール(11位)より低い。特に価格競争力は127位で、下から15番目だ。観光サービス・関連インフラも78位と低い。『明報』の調べでは、ルイヴィトンのバッグの価格は日本より14%高く(税込み)、高級ホテルの平均宿泊料は日本より87%高いことなどが分かっている。識者からは観光振興の方向性が間違っているとの指摘も上がった。
特区政府は貿易、観光、金融、工商業支援・専門サービスを香港の4大支柱産業に位置づけている。だが中央政府が2011年に打ち出した第12次5カ年計画(11~15年)では、マカオについて「世界の観光リゾートセンターを建設する」と明記されているものの、香港に関しては「国際金融センター、貿易センター、海運センターとしての地位を向上させる」となっており、観光は金融などと並ぶほどの位置づけにはなっていない。中央はかねて香港経済が観光業に依存することには懸念を抱いていたことがうかがえる。(2015年5月22日『香港ポスト』)