林鄭月娥・政務長官は4月22日、立法会で行政長官普通選挙に向けた政治体制改革の第2回公開諮問報告書と改革案を発表した。改革案は民主派の立候補も可能にするなど、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会が昨年決定した枠組みの下で最大限に譲歩した内容だ。だが民主派議員らは立法会で否決する姿勢を堅持。政府は普通選挙実現に向けて民主派切り崩しを図っているものの、依然として可決の可能性は低いといえる。
改革案では行政長官候補の指名プロセスを指名委員会による推薦と指名の2段階に分け、推薦段階では10分の1(120人)の推薦を得れば立候補できる。各委員は1人しか推薦できず、候補者が獲得できる推薦上限を240人とすることで5~10人の立候補を可能にする。過去の例から民主派も2人立候補できるとみられる。
指名段階では委員の無記名投票で最終候補を選出。各委員は候補者から2人以上を支持し、委員全体の過半数の支持を獲得した候補者のうち上位2~3人が最終候補となる。指名委員は候補者1人1人に対し信任投票を行うわけで、全員を信任することも可能。これにより指名委員の選択の自由度が増し排他性が低くなるという。普通選挙段階では投票は1回、選挙やり直しのリスクを防ぐため、過半数ではなく最も多くの票を集めた候補者を当選とする。
梁振英・行政長官は発表に先駆けた記者会見で、「改革案が否決された際は次の機会はいつになるか分からず、次回は民主派が支持しても全人代常務委が認めるか、行政長官が同意するか、他の議員が支持するかは未知数だ」と指摘。袁国強・司法長官は「改革案の主旨は現行の枠組みの下でできる限りハードルを低くしたこと」と強調した。
だが民主派は26日から改革案に反対するキャンペーンを開始。車で各地を回るなどで「改革案を受け入れれば、その後は永久に改正されない」と市民に訴えていく構えだ。
林鄭長官らはすでに15日から民主派議員との個別会談を行っている。政府は立法会での可決に向けて民主派議員の約半数である13~14票の切り崩しを狙っており、前回の政治体制改革で政府支持に回った民主党と香港民主民生協進会(民協)などがターゲットとされる。林鄭長官は15日の会談後の会見で、あらためて「全人代常務委の決定は撤回・修正されることはない」と強調。民主派は幻想を抱かず、まず民意に耳を傾け、改革案否決に縛り付けぬよう呼びかけた。
だが同日会談した民主党の劉慧卿・主席は同党の6票は否決に投じると表明したほか、同じく会談した公共専業連盟、工党の議員も否決を堅持する姿勢を示した。
一方で民主派の内部分裂も顕在化している。改革案発表の際、民主派議員が議場を離れる抗議活動を行ったが、民主派議員27人の足並みはそろってなかった。公民党の梁家傑・代表があらためて改革案の否決を宣言するとともに民主派議員は集団で退席。だが公民党の湯家驊・議員と社会民主連線(社民連)の梁国雄・主席が議場に留まったほか、無所属の黄毓民・議員と会計界選出の梁継昌・議員は初めから出席していなかったので、退席したのは23人。うち5人は梁家傑氏の発言中に先に退席するなどで退席後の記者会見には出席しなかった。
民主派議員らは13日、改革案を否決する連名の声明を発表。同様の声明は3度目だが、この時は急進派の4氏が署名しなかった。政府の第1の切り崩し対象ともみられている公民党の湯氏は21日、今後は民主派の合同署名や記者会見には参加しないとの声明を発表した。湯氏はかねて中央と民主派の対話を主張しており、穏健民主派を集めた新たなプラットホームも組織している。
また民主党中央委員の黄成智・元立法会議員は3日付『信報』に寄稿した論説で「改革案を否決しても中央の決定が修正される保証はなく、可決した方が現状よりいい」と訴えたことも注目された。内部からの批判としては3月27日付『明報』に寄稿した狄志遠・元民主党副主席に続くものだ。黄氏はメディアに対し党内に同様の考えを持つ者も多いことを明らかにしたほか、穏健民主派が計画している改革案可決を求める署名活動の発起人を務めている。だが黄氏は若手党員に党中央委員会の決定に違反したと党紀律委員会に訴えられたほか、党中央委員を辞任している。
学連 可決なら立法会襲撃も
香港大学民意研究計画は改革案発表を受け、香港理工大学社会政策研究中心、香港中文大学伝播与民意調査中心と合同で大規模世論調査を実施している。立法会での採決の日まで改革案に対する市民の支持度を公表していく計画だ。
だが民主党の劉主席は「世論調査には反対しないが、圧力にはならない」と強調。民協の馮検基氏も「参考にするにすぎない」と述べるなど、否決の姿勢を崩そうとしない。民主建港協進連盟(民建連)の葉国謙氏は多くの世論調査の結果から改革案に対し6割が支持、3割が反対、1割が未定であることを挙げ、「民主派は3割の支持者しか顧みないため、世論調査の影響力は小さい」との見方を示した。
最新の世論調査を見ると以下のような結果だ。無線電視(TVB)は嶺南大学公共管治研究部に委託し、4月23~26日に1112人を対象に調査。改革案の可決については「支持」が50.9%、「反対」が37.9%、「分からない」が11%。否決された場合の責任は誰にあるかは「民主派」が41.6%、「特区政府」が37.3%、「中央政府」が30.5%、「親政府派」が14.3%となっている。
香港研究会は22~26日、1099人を対象に調査。改革案の可決については「支持」が63%、「反対」が29%、「どちらでもいい/言い難い」が5%、「意見なし」が3%。仮に民主派議員によって否決された場合、「次の選挙でその民主派候補には投票しない」との答えは58%に上った。同協会は「否決されれば民主派から支持者が流失する可能性が高い」とみて、民主派に熟考を促している。
一方、香港専上学生連会(学連)の羅冠聡・秘書長は14日、TVBの英語番組で「民主派は世論調査に従って投票すべきではない」と述べ、改革案が可決されれば立法会議事堂を占拠し議事堂内の公共物を破壊すると警告。「人を傷つけさえしなければ暴力には当たらず、これら行為はセントラル占拠時よりも正当性を持つ」と説明した。政府関係者は「現在のところ改革案の可決は悲観されているので大規模なデモ活動が起こる可能性は低い」とみるが、最終的に僅差で可決されれば「立法会の内外で大規模抗争が発生するリスクが高まり、多くの後遺症が残る」と指摘している。可決か否決か、社会の安定につながるのは一体どちらなのだろうか。(2015年5月8日『香港ポスト』)