英シンクタンクのZ/Yenグループが4月7日に発表した国際金融センター指数で香港は世界3大金融センターから脱落し、衝撃的に受け止められた。第1四半期の世界コンテナ港ランキングで香港は青島に抜かれ6位に転落するなど、香港の経済的地位の低下が著しい。研究機関などは今年通年の域内総生産(GDP)伸び率予測を下方修正しているほか、来年にはデフレに突入するとの見方も出ている。
恒生銀行は4月8日に発表した最新リポート「香港経済月報」で今年通年のGDP伸び率を1.8%と予測した。昨年の2.4%から大幅な減速となる。GDPの3分の2を占める個人消費が落ち込み、昨年ほど経済成長には貢献できないのが主因だ。2014年は旅行者による消費が小売り売上高の42%を占めたが、旅行者の減少に伴い小売り売上高も減少。旅行者数伸び率は14年第4四半期の12.1%から15年第4四半期にマイナス4.3%となり、同期の小売り売上高伸び率も3.1%からマイナス3.9%に推移した。
野村国際(香港)は先に発表したリポートで今年のGDP伸び率を1.5%と予測したほか、住宅相場は昨年第3四半期のピーク時に比べ30%下落するとみる。仮に香港経済にコントロール不可能なリスクが現れた場合、住宅相場は60%下落し、GDP伸び率はマイナス0.1%にまで低下すると予想。さらに住宅相場の下落や小売業の不振による失業率上昇で、来年はデフレに陥るとの見通しを示した。リポートでは主に小売業と不動産業の雇用減少によって失業率は今年が3.6%、来年が4.3%にまで上昇すると予測。来年の消費者物価指数(CPI)伸び率予測をもともとの3%からマイナス0.4%に下方修正した。デフレに陥るのは1999~2004年以来となる。
香港大学経済及商業策略研究所も4月6日に発表したリポートで今年通年のGDP伸び率予測を先に発表した2%から1.5%に下方修正するなど、各機関の経済見通しは悲観的になっている。特区政府統計処が19日に発表した1~3月の失業率は3.4%で、8カ月ぶりに上昇。特に小売業の失業率は5.5%に達した。香港ディズニーランドが約100人の人員削減を行うことも報じられ、失業率のさらなる上昇が見込まれている。
Z/Yenグループの国際金融センター指数では長期にわたってトップ3はロンドン、ニューヨーク、香港が占めていたが、今年は香港が昨年の3位から4位に後退し、昨年4位だったシンガポールが3位となった。香港がトップ3から脱落するのは09年以降で初めて。中国本土では上海がトップで、昨年に比べ5ランク上昇の16位。深センが4ランク上昇の19位。香港の経済成長停滞に対する警鐘として波紋を広げている。
香港港口発展局が発表した3月のコンテナ取扱量は前年同月比8%減の152万4000TEU(20フィート標準コンテナ換算)。2月の同16%減から減少幅は縮小したものの、14年7月から21カ月連続の下落となった。1~3月の累計では前年同期比10.4%減の441万TEU。世界のコンテナ港上位5位の同期の取扱量は、上海が同1.64%減の853万8000TEU、シンガポールが同9%減の739万TEU、深センが同2.6%減の556万9200TEU、寧波(舟山)が同5.1%増の538万5400TEU、青島が同4.8%増の442万8400TEUとなっており、かつて世界一を誇っていた香港は今や6位にまで転落した。
統計処が発表した2月の輸出総額は前年同月比10.4%減の2045億ドルで、10カ月連続の減少。前月の同3.8%減から減少幅が拡大している。香港貿易発展局(HKTDC)が3月23日に発表した第1四半期の輸出指数は37.3で、昨年第4四半期の31.4から改善。昨年第2四半期以降で最高となったものの、依然として景況の分かれ目である50を下回っており、貿易会社の見通しはまだ悲観的だ。HKTDCは通年の輸出総額はゼロ成長、輸出量では2%の伸びとの予測を据え置いた。
本土からのツアー客6割減
日本経済新聞社と金融統計機関マーキットが4月6日に発表した3月の香港の購買担当者指数(PMI)は45.5で、2月の46.4から0.9ポイント下落。13カ月連続で景況判断の目安となる50を下回り、過去7カ月で最低となった。香港の民間企業の経営環境がさらに悪化したことが反映されている。
統計処が発表した2月の小売り統計では、小売業総売上高は前年同月比20.6%減の370億ドルで、12カ月連続の減少となった。政府スポークスマンは「小売業は今年に入ってさらに減速し、売上高は2けたの減少となった。観光業の低迷以外に資産市場の調整も市民の消費意欲を減退させている」と話している。
小売り低迷の最大要因は観光客の減少だが、香港政府観光局(HKTB)が発表した2月の来港者数は前年同月比20.5%減の延べ429万5731人だった。うち中国本土からの旅行者は同26%減の延べ336万7736人。特に自由行による旅行者は同35%減で、過去1年で最大の下落幅となった。
深セン市の戸籍住民に対する数次ビザが昨年4月13日に引き締められて1年が過ぎたが、入境処の統計では昨年4月13日から今年3月31日までに来港した本土住民は約4249万人で、前年同期比8.6%減となった。このうち深セン市民の旧数次ビザ(何回でも来港可)での来港が同57.3%減の約631万人、新数次ビザ(週1回だけ来港可)での来港が約438万人。合計で約1069万人となり、前年同期の旧数次ビザでの来港者数に比べると27.7%減となる。立法会の姚思栄・議員(観光業界選出)は、来港する深セン市民の消費は日帰りでも平均2000~2800ドルであるため、「これら高額消費の旅行者の減少は小売業界にとって打撃」と指摘した。これまで店舗拡大を続けていた宝飾品店や薬局兼乾物屋は大きな打撃を受け、周大福、周生生、六福、英皇鐘表珠宝の上場4社は過去1年で計10店舗を閉鎖。業界では今後さらに店舗が削減されるとみている。
香港旅遊業雇員総会などは4月18日に記者会見を行い、業界内での調査結果や見通しを発表。第1四半期の本土からのツアー客は前年同期比59・25%減の1万1685組で、1日平均では昨年の300組余りから約130組に減った。4月30日からのメーデー連休ですでに確定しているツアー客は昨年の10%にも満たないという。中国社会科学院が18日に発表した「観光緑書」は「セントラル占拠行動」「イナゴ駆除行動」、並行輸入活動への抗議デモ、宝飾品店での死亡事件などが香港の観光イメージを損なったと指摘した。
今年から来年にかけて立法会選挙や行政長官選挙を控えているが、経済状況の悪化が続けば政権に対する市民の反感も高まり、選挙動向が左右されるだろう。(2016年4月29日『香港ポスト』)