国慶節(建国記念日)に当たる10月1日朝、大学・専門学校十数校で「香港独立」と書かれた大型の垂れ幕が掲げられた。これらはすべて独立派「香港民族党」が提供したものだが、「2047年第2次前途問題」として独立を目指す主張は大学だけでなく中学・高校へと波及している。その背景には「1国2制度と香港基本法は2047年に期限を迎える」という大きな誤解がある。
保護者ら子女の前途を懸念
垂れ幕が掲げられたのは香港大学など8大学のほか、公開大学、恒生管理学院、香港演芸学院など少なくとも15校に上る。香港民族党の陳浩天・召集人は夕方になって同党が提供したものだと認めたが、「自発的行動」だとして同党によるコントロールを否定した。香港大学学生会の孫暁嵐・会長は「学生会は何も知らない」と述べたほか、校内の学生による仕業とは限らないと指摘した。
同日には「珍惜群組」のメンバー約100人が金紫荊広場で香港独立に反対する集会を開催。スポークスマンの李璧而氏は「若者の国家や政府に対する憎悪を煽り、独立を鼓吹させている政治家がいる」と批判。「セントラル占拠行動」の黒幕を糾弾する「反黒金関注組」や「和平論壇」などのメンバー約70人も尖沙咀で「香港に災いをもたらす政治家を追い出せ」などのスローガンを掲げデモ行進した。
香港大学では学生会会報『学苑』8月号で「帝国瓦解 香港解植」と題し、再び独立を主張する論文が多数掲載された。「香港の法的地位、国民身分、文化、言語、歴史はみな中国と異なる」と主張し、「中央は『自由行』という人海戦術で香港の経済・社会構造を変えようとしている」という陰謀論を展開している。
香港民族党は8月13日、フェースブックで「中学政治啓蒙計画」と称するプロジェクトを発表、中高生メンバーの募集を始めた。同党は「中高生にも独立推進の過程に参加させる」として、宣伝内容、理論、経費の提供や独立推進組織の設立もサポートすると表明。最終的に各中学・高校に同党の理念散布を担う学生を置くことが目標という。
中学・高校で香港独立を鼓吹・推進している「学生動源」は9月1日、多数の学校で独立を宣揚するチラシを配付した。学生動源は多数の学校に下部組織を設置し、これら組織のメンバーが校門の外や校内で生徒らにチラシを配付。チラシには「2047年第2次前途問題」「1国1制度? 1国2制度? 香港独立?」と書かれ、組織への加入を呼び掛けている。
学生動源は2月の立法会補欠選挙で本土民主前線の運動員を務めていた高校生らが4月に設立。8月までに少なくとも16校の中学・高校に「本土関注組」「本土学社」という下部組織を設置した。学生動源には召集人が少なくとも5人おり、中でも政治活動歴が最も長いのが発起人兼召集人の謝財華氏。謝氏は14年に香港道教連合会円玄学院第一中学6年生だった時に校内で「政改関注組」を設立。本土派(排他主義勢力)の「教祖」と呼ばれる黄毓民・前立法会議員が主宰する「普羅政治学苑」の講座に参加し、本土民主前線の運動員を務めた。もう1人の発起人兼召集人である欧陽氏も黄氏の信奉者であるほか、他の召集人には「学民思潮」元メンバーなどがいる。学生動源メンバーは発足時の約30人から現在は60人余りに拡大。その多くは長期的に「城邦派」などの本土派組織とともに活動してきた。
特区政府教育局は8月16日、教育団体代表らと会談し、香港独立を鼓吹・推進する組織が中学・高校に活動の手を伸ばしている問題を討議した。子女が違法行為にかかわり前途に影響する懸念から保護者らの関心も高まっているという。教育局の呉克倹・局長は9月1日、小学校を視察した後で記者会見し、チラシには暴力を推奨する文言もあるため「生徒らが未成熟なうちにミスリードされ、法を犯して一生に影響することを保護者や教師が心配している」と述べ、教師は根本的な命題では立場を明確にするよう促した。
2047年期限説の誤解
梁振英・行政長官は先ごろ『経済導報』の取材を受け、「一部の若者は香港の前途について間違った認識と判断を持っている。50年不変の後は主権まで変えていいと思っている」と指摘。これら間違った認識を持つ若者は教育を通じて思想の偏りを正すべきで、彼らに「香港が中国の一部であることに期限はなく、2047年以降も変わらない」と言わなければならないと強調した。
袁国強・司法長官は雑誌『紫荊』で「法的観点でみると香港基本法のうち第5条(現行の資本主義制度と生活スタイルを維持する)だけが『50年不変』を提示しており、他の条文にこの期限はない」と指摘し、基本法が返還後50年で自動的に失効するとの条文はないため「2047年6月30日以降も法的効力がある」と述べた。基本法委員会委員で香港大学法律学院の陳弘毅・教授も「全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が2047年前後に基本法を改正しない限りは基本法に失効や満期は存在しない」と解説した。中央人民政府駐香港特区連絡弁公室(中連弁)の王振民・法律部長も9月22日、1国2制度に関する昼食会に出席し、将来は社会主義と資本主義の区別がなくなるとも考えられるため「2047年以降に1国1制度を実施するかは討論できる」と述べている。
独立志向の背景に「2047年に私有財産は没収される」と喧伝されていることがある。特区政府発展局の陳茂波・局長は9月18日、公式ブログで「2047年期限説に根拠はない」と題し、土地問題について解説した。立法会議員選挙で一部候補者が掲げていた「2047年以降」の問題のうち土地契約の問題には誤解があると指摘。中英共同声明で「1985年5月27日~97年6月30日に香港政庁が放出・契約更改する土地の契約は2047年6月30日を越えてはならない」とされていたことが誤解の原因とみる。基本法123条によると「返還後に満期となった土地契約については特区政府が自ら法律制定や政策処理を行う」となっており、これに基づき地政総署が処理している。06年に満期を迎えた薄扶林花園の土地契約などは56年まで更新され、すでに2047年を跨いでいることを挙げ、返還後に放出された土地は短期・特殊契約を除きほぼすべて2047年を越えていると説明。「2047年以降は自動的に不動産所有権を失う」とのうわさを信じてはいけないと呼び掛けるなど、政府は誤解の払しょくに大わらわだ。(2016年10月14日『香港ポスト』)