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2015.10.14

セントラル占拠から1年 三権分立めぐり物議

 中央人民政府駐香港特区連絡弁公室(中連弁)の張暁明・主任が9月12日、「香港基本法」公布25周年シンポジウムで「香港は三権分立を実施しない」と明言した。20日には全国香港マカオ研究会の陳佐洱・会長が香港でのフォーラムで「香港は植民地から脱却できていない」と批判し、立て続けに物議を醸した。これら発言は昨年の「セントラル占拠行動」の発生から1年を迎えるのを機に、政治体制改革の議論で浮き彫りとなった香港市民の基本法と1国2制度に対する認識不足について中央が明確な立場を示したものとみられる。

 張主任は香港の政治体制について「返還前も返還後も三権分立は実施していない」と強調。これは基本法起草時の重要な指導思想であることや、2007年に全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の呉邦国・委員長が「香港の政治体制の最大の特徴は行政主導であり、香港のもともとの政治体制の有効な部分で、港人治港を実現する最良の体制」と述べたことなどを説明し、香港の政治体制を「中央政府管轄の下で行政長官を中核とする行政主導で、行政と立法は相互に制約・協力し、司法は独立する政治体制」とまとめた。基本法に「行政主導」の文字がなくともこれを否定することにはならず、基本法には行政主導を体現する規定が20余りあると指摘した。

 これに対し弁護士団体の香港大律師公会は14日夜に声明を出し、特に張主任が「行政長官は行政、立法、司法の3機関の上の特殊な法律的地位にある」と述べたことに対し「行政長官が基本法の下で香港の法律を凌駕すると理解されてはならない」として遺憾を表明したほか、公民党の梁家傑・代表は「行政長官が皇帝のようなもの」と批判した。

 だが袁国強・司法長官はこれらの声に対し、張主任の言葉の一部を取り上げて拡大解釈していると指摘し、「張主任は行政長官と特区政府が立法と司法の監督管理を受けると強調している。行政長官が皇帝のようになることは絶対にない」と述べた。

 香港基本法委員会の委員を務める北京大学法学院の饒戈平・教授は15日、この問題について解説。まず基本法の規定と立法の原意に照らすと香港の政治体制は簡単に「三権分立」に区分できないと指摘。この点は基本法起草の過程で長期的に議論された後、起草委員会は「香港は中央直轄の特別行政区として簡単に外国の三権分立体制を採用することはできない」との意見で一致したという。同時に英国統治の行政主導体制の有効性を考慮し、香港の政治体制の安定と継続性を保つため起草委は最終的に行政主導の体制を確定。この体制の下で行政、立法、司法は相互に制約・協力するが、三権分立と同じではないと説明した。

 6月に林鄭月娥・政務長官は、普通選挙案が可決できなかった原因の1つとして「中央の立憲政治権力に対する香港人の認識不足」を挙げていたが、張主任の発言はこの問題に対応したものといえる。

 続いて物議を醸したのが全国香港マカオ研究会の陳会長の「香港は返還後、法に基づく脱植民地化を実施できていないどころか、80年代の脱中国化が復活している」との発言。脱中国化は歴史の本質に背く現象で、1国2制度を損ない香港に大きな消耗をもたらし、競争力低下の根本原因の1つと非難した。「脱植民地化」とは何を指すのかという疑問を受け、陳会長は翌21日に補足説明として「国家の主権、安全、発展・利益に抵触していながらも正そうとしない場合は植民地から脱却できていない問題が出現する」と述べたほか、廉政公署(ICAC)は維持すべきであることや道路名は返還前と変わらないなど、すべてのことに脱植民地化の問題が存在するわけではないと説明した。

 陳会長の発言に対し特区政府政制及内地事務局の譚志源・局長は「本土派(排他主義勢力)の香港人はごく一部で、大部分の市民は香港が国家の一部であることを擁護している」として過剰な懸念とみる。だが全国香港マカオ研究会の劉兆佳・副会長が「多くの香港人はいまだ返還と中国共産党の統治の事実に抗い、一部は同胞を排斥し、自身を中国人と認めない。植民地懐古といえる」と警戒したほか、同研究会理事で北京大学法学院の陳端洪・教授は「香港は現在に至るまで基本法23条に基づく立法を行っておらず、法律上は脱植民地化ができていない」と指摘した。

区議会選に民主派候補乱立

 セントラル占拠発生から1年を迎えた9月28日、特区政府本庁舎周辺で「民間人権陣線」が取りまとめる集会が行われた。民主派政党は11月の区議会議員選挙に影響するのを懸念し大規模な動員を行わなかったため、参加者数は警察の推計で約920人にとどまった。警察も現在の社会状況から昨年の規模で占拠行動が起こる可能性は低いとみて3000人を配備したが、デモ参加者はそれを下回った。

 多くの団体は再び占拠行動は起こさないと表明していたが、「人民力量」は1000人が支持すれば車道に飛び出して87分間占拠すると宣言し、約1時間にわたり警察と対峙した。一方、占拠行動に反対する「忠義民団」「占中不代表我」など約200人はセントラルから湾仔の警察本部までデモ行進し、「民主派を排除し香港を取り戻そう」と訴えたほか、「保衛香港運動」の約40人は銅鑼湾でデモ行進し「占拠行動が香港の経済と法治を損なった」と非難した。

 10月2日には区議会選の立候補届け出が始まった。香港域内18区に設置された区議会の議員選挙は4年に1回で、今回は431選挙区で1人ずつ議員が選出される。民主派政党は「民主動力」の調整の下で約200人が出馬。11年に行われた前回の235人より少ない。親政府派の現職議員への挑戦はハードルが高いため、各政党は従来にも増して党員の地域での実績を重視し、精鋭主義で勝率を高める考えだ。今のところセントラル占拠参加者や並行輸入活動に抗議する団体など本土派のうち14団体と調整が図られたが、「青年新政」「北区動源」「東九龍社区関注組」の3団体とは協調できず、少なくとも14選挙区で候補者がぶつかる見込みだ。

 青年新政の梁頌恒・召集人は「親政府派も民主派も味方ではない。われわれは民主化推進では民主派より積極的で、地元要素と香港人意識を重視している」と述べ、9人を立候補させることを明らかにした。また北区動源の黄嘉浩氏は1月に北区祥華選挙区に出馬を決めたが、民主党が同区に出馬を決めたのはその半年後であるため民主派が自分たちを狙い撃ちしていると批判。さらに過激派の「人民力量」「熱血公民」なども民主党や公民党の候補を狙い撃ちするとみられる。民主派政党と本土派・過激派は双方ともに相手側が「親政府派の別働隊」であるとの疑念を抱いているため、共倒れにより親政府派が漁夫の利を得るとの見方が高まっている。(2015年10月16日『香港ポスト』

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