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2015.04.19

中国本土からの来港を制限 小売業に冬の時代

 中央政府は4月13日、深セン市の戸籍住民に認められた香港旅行の数次ビザの制限を発表した。並行輸入活動が香港市民の生活に影響を与えているとともに、その抗議デモが中国本土からの旅行者を排斥する暴力行為となっている問題に対処したものだ。だが昨今の経済環境やデモの影響などで旅行者は減少しており、ビザ制限も加わって小売業界には冬の時代が到来するとみられている。

並行輸入問題に対処

 梁振英・行政長官は会見で国務院公安部出入境管理局が発表したばかりの内容を説明した。数次ビザは自由行(本土からの観光目的による個人旅行)に次いで2009年から実施されたもので、並行輸入活動の問題から特区政府が昨年6月に政策見直しを中央に提言。年に何度でも来港できる数次ビザの発給は同日から停止し、1週間に1度だけ来港できるビザに変更される。ただし政策変更は過去に発給されたビザには影響しないため、効果が表れるには一定の時間を要する。昨年の統計では1週間に2回以上来港した人は459万人で、本土からの来港者の10%に当たる。これら旅行者の来港が制限されることで並行輸入活動が減少する見込みだ。

 だが新政策を受けて並行輸入業者らは深セン市民に依存できなくなるため、「運び屋」として香港市民の大量募集を始めた。フェースブックなどでは「日給平均600ドル、1日数時間のお仕事」と銘打った求人が現れ、多くの香港市民が応募しているという。

 梁長官は新政策のターゲットは並行輸入業者であり、旅行客ではないことを強調。新政策の効果が表れた後も香港市民の並行輸入活動は続くことから、部門をまたぐ対策チームを設置して取り締まりを強化することを明らかにした。対策チームは林鄭月娥・政務長官が指揮し、主に契約に違反した倉庫の摘発や街頭の秩序維持活動を行う。

 さらに梁長官は並行輸入活動を行う香港市民に対し、本土当局も厳しく取り締まると警告。深センの出入境管理所では本土への入境が1日3回に達するとゲートで発見される仕組みがあるが、その70~80%は香港市民であることが分かっている。特区政府入境処の並行輸入業者ブラックリストは主に本土住民のリストだが、現在、香港市民も含んだリスト作成を検討している。深セン側では本土との往来が多い香港市民が個人用途の物品を過剰に携帯していたり、関税申告が必要な物品や持ち込み禁止の物品が発見されれば税関に通報し、法的措置を取るという。

 また並行輸入活動の問題を解消するために深センとのボーダーにショッピングモールを建設する計画もある。デベロッパーの新鴻基地産発展(サンフンカイ・プロパティーズ)と恒基兆業地産(ヘンダーソンランドデベロップメント)は3月、落馬洲のボーダーに近い新田村の土地を提供し、10月1日の国慶節(建国記念日)連休までに非営利形式のショッピングモールを建設することを明らかにした。規模は42万平方フィートで、MTR落馬洲駅から徒歩5分。店舗賃貸料は1ドルを形式的に徴収するだけ。ただし土地を提供するのは2年だけの予定で、将来的には回収して恒久的なショッピングモールを建設するという。

排斥デモで旅行客が減少

 特区政府入境処の陳国基・処長は4月4日、商業電台の番組に出演し、3月の来港者数が前年同月比8.7%減、本土からの来港者数は同約10%減となったことを明らかにした。続く9日には清明節連休(4~6日)の来港者数が減少したことも発表。来港者数は46万8000人で、前年の清明節連休(4月5~7日)に比べ12.4%減。うち本土からの来港者数は同14%減の35万9500人、その他の国・地域からの来港者数は同6.6%減の10万8500人だった。陳局長は「深刻な減少幅」と述べ、旅行者排斥デモの影響だと指摘した。

 旅遊業議会によると、3月に本土から香港を訪れたツアーは9350組で、前年同月の1万6104組から42%減少した。1~3月では前年同期比21%減だ。董耀中・総幹事は「旅行業界は03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)流行後で最も厳しい状況」と形容した。本土住民の旅行先は香港から日本、台湾、韓国など通貨安の国・地域にシフトしたことが明らかだ。

 旅行者減少によりイースター・清明節連休の観光・小売市場が低調だったことを受け、業界では5月1日からのメーデー連休に対しても悲観的な見方が広がっている。ホテル予約サイトでは最近、通常3000ドル近くの5つ星ホテルの宿泊料が700ドル余りに引き下げられており、廉価なホテルでは100ドル余りも見受けられる。

 旅舎業商会によると、この時期は例年ならばホテルや旅館は予約が満室になるが、今年は最高でも40~50%にしか達していないという。このため1000軒余りある宿泊施設のうち20%が経営難に陥るとみる。例年ではメーデー連休の本土からのツアー客は1日当たり約700組だが、入境団旅行社協会の予測では今年は40%減の約300組。本土の大型連休の時期としては過去10年余りで最悪になるとみられる。

 不動産コンサルタントは小売業の不振や深セン市民の数次ビザ制限を受け、店舗賃貸料の下落を予測。DTZは最近の店舗取引はいずれも賃貸料が2~3年前より低く、賃貸料の下落傾向が表れていると指摘。同社は年初に主要繁華街の店舗賃貸料が年内に5~10%下落すると予測したが、現在の小売り市況は予想より悪いため下落幅を10~15%に修正した。さらに新界北部の上水、元朗、屯門などの店舗賃貸料予測は5~10%上昇から10~15%下落に転換した。またナイトフランクは新界北部の賃貸料が短期的に10~20%下落すると予測している。

 梁長官は8日、イースター・清明節連休の観光市場低迷を受け、当局は危険信号として注視し観光客誘致に力を入れることを明らかにした。梁長官は旅行者減少には為替変動や外的な経済環境の影響があるものの、旅行者排斥デモが重要な原因と指摘。香港のイメージ回復のためキャンペーンを展開し、本土と外国に対しデモはごく一部の者の違法行為に過ぎないと宣伝すると説明した。観光業界消息筋によると、財政予算案で「セントラル占拠行動」対策として政府観光局(HKTB)に提供された8000万ドルのうち5500万ドルがキャンペーンに充てられる。買い物、食事、宿泊などで優遇を提供するもので、4月末からと夏休みシーズンの2段階に分けて行われる。SARS流行時の悪夢再現が懸念される中、政府は対策に躍起となっている。(2015年4月24日『香港ポスト』)

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