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2016.05.22

過激派乱立で混戦へ 9月に立法会選挙

セントラル占拠行動の中心人物の1人、黄之鋒氏も新党を設立。立法会議員選挙に候補を擁立する

セントラル占拠行動の中心人物の1人、黄之鋒氏も新党を設立。立法会議員選挙に候補を擁立する

9月に行われる立法会議員選挙では、新たに設立された政党・政治団体を含め少なくとも8組織・連合が初めて候補を擁立する。主に2014年の「セントラル占拠行動」の参加者らが発足した組織だが、民主派の内部分裂と細分化で混戦状態が予想されている。

新党など8組織が初参戦

従来の組織以外で候補擁立を計画しているのは、主流民主派から分裂し中間派を名乗る「新思維」「民主思路」、本土派(排他主義勢力)を名乗る団体では「熱血公民」「普羅政治学苑」「香港復興会」による連合と「本土民主前線」、占拠行動後に参加者らが発足した組織では「青年新政」「東九龍社区関注組」など6団体による連合と「香港衆志(デモシスト)」「香港列陣」、それに独立派を名乗る「香港民族党」となっている。

青年新政など占拠行動参加者による6団体は4月10日に選挙協力を発表。「香港民族、前途自決」を掲げ、5年後の2021年に自決に関する住民投票を行うという。香港衆志は占拠行動を主導した2大学生団体の1つである学民思潮(すでに活動停止)元メンバーの黄之鋒氏と周庭氏を中心に4月10日に発足。もう一方の学生団体である香港専上学生連会(学連)の羅冠聡・前秘書長が主席、学民思潮の黎汶洛・元スポークスマンが副主席、黄氏が秘書長、周氏が副秘書長を務める。「民主自決」を綱領に掲げ、2047年以降の香港の前途を決める住民投票を10年以内に行い、独立も選択肢に含める。

香港列陣は学連の周永康・元秘書長と岑敖暉・元副秘書長らが設立準備を進めている。香港専上学院の劉小麗・講師、土地正義連盟の朱凱迪氏ら約40人を擁し、職能別選挙枠も含め4人の候補擁立を計画。綱領に「民主自決運動」を掲げ、政策決定・運営方式は都市ではなく国家を基礎とすることを目指す。

香港中文大学の蔡子強・講師の分析によると、穏健派の新思維と民主思路は別として、若者層では「非暴力を掲げる香港衆志と香港列陣」に対し「徹底抗争を掲げる本土民主前線と占拠行動6団体連合」、中年層では「従来の過激派である人民力量と社会民主連線」に対し「熱血公民、普羅政治学苑、香港復興会による連合」がライバル関係に当たり、過激派4勢力による混戦が予想される。

すでに立法会補欠選挙に出馬した実績を持つ本土民主前線は、その選挙費用に不審な点が多いことが明らかになった。立候補した梁天琦氏が選挙事務処に申告した選挙費用は75万ドル余り。だが、そのうち1400ドルの「文書破棄」は業者に委託し140箱の文書を処分したことになっているほか、「選挙補完用具」として申告された800ドル余りは少なくとも5回にわたってガソリンを購入しており、旺角暴動での放火に使われたとみられる。さらに暴動が発生した両日に購入した大量の食品・飲料や、選挙後の宴会費8500ドルまで計上。また献金51万ドル余りのうち上位2人は謎の人物で、民主派無所属の黄毓民・議員が設立した普羅政治学苑が3位となっていた。

本土民主前線の梁氏と黄台仰氏が在香港米国総領事館の職員と密会したことが先に明らかにされたが、在外華人サイト「華発網」は4月に「なぞの読者からのメール」として会話の内容を暴露した。領事館職員は本土民主前線の経費状況に着目し、黄氏らは海外から集めた資金が約150万ドルあるが、裁判や立法会選などで資金不足だと説明。領事館職員は、メンバーリストや具体的な活動計画を明記して書面で経費支援を申請すれば、米国政府は全米民主主義基金(NED)を通じた支援を検討すると述べたという。

市民と異なる「本土」の認識

元祖「本土派」である熱血公民、普羅政治学苑、香港復興会による連合から立法会選に出馬する嶺南大学中文系の陳雲(本名・陳雲根)助理教授は8月で大学を辞めることが分かった。『香港城邦論』の著者で独立派からは「国師」と呼ばれ、黄毓民氏と並び独立・本土派に影響力を持つ。陳氏は4月14日にフェースブックで、嶺南大学から正式な通知を受け取り、8月の契約満了後は更新されず教職生涯を終えることを明らかにした。陳氏は「占拠行動を支援したことに対する政府の報復」として政治弾圧だと訴えているが、市民から「学生の抗争参加を奨励した」と抗議する手紙などを受け取った嶺南大学の鄭国漢・校長から警告を受けていたという。

民主派内の分裂状況は民主派人材を輩出してきた香港大学学生会の会報『学苑』からもうかがえる。『学苑』4月号は「一代人」と題し、巻頭論文「さらば『民主派』、政治お飾りに別れを告げる」では主流民主派を「反対票のボタンを押すだけ」「民主を叫ぶだけのタダ飯食らい」と非難。「『民主派』革新論」では黄毓民氏や熱血公民の鄭錦満氏をインタビューし、過激・本土路線が主流民主派を排除するのを支持。他の論文でも主に民主党と公民党を攻撃しているほか、黄之鋒氏は学民思潮時代に熱血公民の提唱した憲法制定を否定していたのに、香港衆志の創設では住民投票を通じた憲法制定を主張していると皮肉った。これまで言論の自由を理由に『学苑』を擁護していた民主派議員らも今回は批判する側に回っている。

全国政協委員で香港基本法研究センターの胡漢清・主席は4月12日に記者会見を行い、独立を掲げた香港民族党の発足がすでに現行条例で違法行為に当たるとの見解を示した。胡主席は政党の発足や会社登記の申請などの事実はすでに「行動」に当たるため「もはや言論の自由をめぐる論争ではない」と指摘。「刑事罪行条例」の「反逆」「煽動意図」に関する罪を犯しているとみる。また「香港独立」を選択肢とする住民投票を推進する政党・組織も同様に「煽動意図」などの罪に問われるという。

「本土」を掲げる政治勢力が多い中、民主思路は香港市民にその意味を尋ねる世論調査を行った。調査は政策21に委託して2月半ばから4月5日に1016人を対象に実施。「本土」の含意については「香港の生活方式、文化、歴史を守る」が最も多い60.8%で、「香港の資源は香港人が優先使用する」が53.4%、「基本法に従い高度な自治を保証する」が46.7%だった。一方、「香港独立」は10.2%、「中国本土との経済融合ペースを落とす」は4.6%に過ぎず、「本土」を掲げる政治団体と市民の認識は異なることが分かる。ただし18~29歳の若者では「香港独立」が20%に達し、暴力的な抗争手段を受け入れる割合も高かった。

立法会選ではこの世代ギャップがどう反映されるか注視されている。
(2016年5月27日『香港ポスト』)

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