北京で9月3日に行われた「抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利70周年」記念の軍事パレードには梁振英・行政長官が率いる約300人の香港代表団が出席した。特区政府高官や行政会議メンバー、親政府派の立法会議員、財界代表、元兵士のほか、民主派からも3人が招かれた。香港ではこれから11月の区議会議員選挙、来年の立法会議員選挙、2017年の行政長官選挙と選挙が続くのに向けて、中央は民主派との対話を模索している。
軍事パレードには民主派から元公民党の湯家驊・議員、民主党の狄志遠氏、衛生サービス界選出の李国麟・議員の3人が出席。3日夜の宴会の際に国務院香港マカオ弁公室の王光亜・主任、馮巍・副主任、中央人民政府駐香港特区連絡弁公室(中連弁)の張暁明・主任ら中央高官と接触したほか、湯氏は4日も北京にとどまり、王主任、馮副主任と会談した。湯氏は彼の設立したシンクタンク「民主思路」のメンバーで中連弁を訪問することや北京で学術交流活動を行うことを提案し、好感触を得たことを明らかにしたほか、中央が穏健民主派に対し寛容な態度を示そうとしていると感じたという。
これに先駆けた8月26日、馮副主任が来港して民主党幹部らと会談していた。香港基本法委員会の梁愛詩・副主任の仲介によるもので、民主党側は劉慧卿・主席ら5人が出席。馮副主任は2010年の政治体制改革の際にも中連弁法律部部長として民主党との会談に出席していた。6月の普通選挙案否決後に中央高官が民主派と会談するのは初めて。劉主席は中央が権勢側の声しか聞いておらず政策が偏っているなどの不満や、民主党は中央との意思疎通に前向きであることを伝えた。
全国香港マカオ研究会の劉兆佳・副会長は8月31日、香港電台(RTHK)の番組に出演し、馮副主任と民主党の会談について解説した。劉氏は中央が民主党を選んで会談したのは取り込める対象とみなしているからで、中央はより多くの民主派が「忠誠的反体制派」となるのを望んでいると指摘。「忠誠的反体制派」とは、中国共産党の中国での統治・執政の地位を認め、香港基本法の下での体制を受け入れて体制内での改革を目指すものと説明した。
11月22日の区議会選に向け各政党は臨戦態勢に入っている。公共団地などの水道水から基準値を超える鉛が検出された問題や虚偽の選挙人登録の問題をめぐりせめぎ合いが始まっているほか、「本土派」(排他主義勢力)の立候補も取りざたされている。「香港独立」を主張する『香港城邦論』を書いた陳雲氏は7月に行われた香港ブックフェアの記者会見で排他主義勢力を区議会選と立法会選に送り込むことを明らかにした。ただし彼らは地域での奉仕実績が少ないため「大部分は落選する」と認めている。無所属民主派の黄毓民・議員が候補者を模索しており、「セントラル占拠行動」への参加で目立った者を並行輸入活動の影響を受けている鉄道沿線地域に集中的に出馬させる考えだ。
占拠行動に参加した若者らが立候補するための資金援助を持ち掛けられていることも明らかになった。彼らに接触しているのはネット放送局司会者の鄭永建氏で、区議会選への立候補者には15万ドルを支援するが、指定の選挙区に出馬し民主派候補を狙い撃ちすることを条件としている。占拠参加者が組織した「青年新政」の梁頌恒・召集人は8月17日に鄭氏から資金援助の話を受け、鄭氏が複数の財閥と交渉していることなどを聞いた。有線電視の記者が立候補の意思があると装って鄭氏に接触したところ、鄭氏は「必ずしも議席を取る必要はなく、民主派に打撃を与え、外国勢力を政治に介入させないことが目的」と話していた。
占拠参加者による組織と従来の民主派は少なくとも14選挙区でともに立候補することが明らかになっている。そのうち民主党は少なくとも8選挙区で彼らと議席を争う。民主党とぶつかることになる「青年新政」は公開討論を通じてどちらが出馬するかを決めることを要求したが、民主党側はコストや時間の問題から否定的な見方を示した。
セントラル占拠の総括へ
昨年の占拠行動や関連事件に対しては徐々に裁判が行われるなど総括が始まっている。香港独立派の中核的人物といわれる招顕聡氏の裁判もその1つだ。招氏は昨年11月27日、旺角で占拠行動の強制排除が行われている際、警官に体当たりして負傷させた。九龍城裁判法院は7月9日、招氏の行動は故意であることが明らかとみなし警官襲撃罪を確定した。招氏は13年に「香港人優先」を発足し、香港独立を公に主張している。
占拠行動中に立法会議事堂を襲撃したデモ隊の4人にも判決が下った。4人は昨年11月19日に議事堂1階のガラスなどを破壊した容疑で起訴され、裁判所は7月13日、非合法集会と刑事毀損の罪で各人に150時間の社会奉仕、裁判費用500ドルの支払いを言い渡した。だが法曹界では、立法機関への襲撃は深刻な問題であるのに対し判決は軽過ぎ、社会にマイナス影響をもたらすとの懸念も上がった。これを受けて特区政府律政司が刑罰見直しの裁判を申請。東区裁判法院は8月25日、申請を受け入れ事件の深刻性を認め、被告のうち未成年を除く3人の刑罰を禁固3カ月半に変更する判決を下した。
占拠行動の学生リーダーである香港専上学生連会の周永康・前秘書長、羅冠聡・現秘書長、学民思潮の黄之鋒・召集人らは8月18日、警察からの出頭要請を受け、27日に出頭し逮捕、起訴された。昨年9月26日夜に特区政府本庁舎前の広場に突入した件について、「非合法集会に参加した罪」「非合法集会への参加を煽動した罪」で起訴された。この突入事件では翌日に74人が逮捕され、セントラル占拠発起人が占拠行動の開始を宣言。79日間の占拠行動の幕開けといえる事件だ。
香港中文大学アジア太平洋研究所が普通選挙案の否決を受けて行った世論調査(6月24~26日、対象760人)によると、「政治体制改革が失敗した責任は誰にあるか」に対する回答は民主派が30.9%、中央政府が24.2%、特区政府が20.9%だった。
占拠行動に反対するため発足した「幇幇香港 出声行動」は民主派議員らの支持度に関する世論調査を行った。調査は香港研究協会に委託し7月17~29日に計2097人を対象に実施。1位は香港民主民生協進会の馮検基氏、最下位は社会民主連線の梁国雄氏。ワースト4は過激派議員で占められた。議員以外の民主派関係者について反感度を調べたところ、上位3人は学民思潮の黄之鋒氏、『りんご日報』前社長の黎智英氏、セントラル占拠発起人の戴耀廷氏。同団体はこの結果から過激路線は支持を得られないと分析する。
区議会選は本来、政治的テーマを争点とはしないものの、普通選挙案が否決されてから初めて香港全域で行われる選挙だけに、占拠行動や政治体制改革に対する市民の評価をうかがう目安となりそうだ。(2015年9月18日『香港ポスト』)