立法会は6月18日、特区政府が提出した行政長官選出方法改正に関する議案を否決した。2017年の普通選挙は実現せず現行制度で選挙が行われ、少なくとも22年まで普通選挙は先送りとなった。世論の多数が可決を望んだものの、民主派議員らは急進・過激派勢力に縛られる形で否決権を行使。普通選挙問題がいつまでも香港社会の足かせになるのを食い止めようとした政府の狙いは果たせず、今後の統治はさらなる困難も予想されている。
18日正午過ぎに採決が行われる際、香港経済民生連盟の林健鋒氏が一時休会を要求したものの議長に拒否され、その直後に親政府派議員の多くが退席。残った37人だけで採決が行われ、反対28票、賛成8票で否決された。反対票を投じたのは民主派議員27人と医学界選出の梁家騮氏、賛成票を投じたのは自由党の5人、工業界選出の林大輝氏、保険界選出の陳健波氏、香港工会連合会の陳婉嫻氏だけだった。親政府派は体調不良の議員が到着するまでの時間を稼ぐため集団退席して法定人数不足にするつもりだったが、意思疎通が行き届かず一部が議場に残ったため採決が続けられた。だがそんな失態がなくとも政府の民主派切り崩しが失敗し否決は確定していた。
審議が始まった17日は立法会議事堂周辺に可決支持派と反対派それぞれの市民が集結。支持派は主にセントラル占拠への反対を掲げて発足した「保普選反暴力大連盟」が約1万人を動員。反対派はピーク時で2000人。民間人権陣線など民主派団体は14日、採決時に10万人による立法会包囲を目指してデモ行進を行ったが、参加者は約3000人で、予定していた5万人を大幅に下回った。
特区政府保安局の黎棟国・局長は10日の立法会答弁で警備態勢について説明し、「群衆運動は容易に予期せぬ事件に発展したり、『乗っ取り』に遭ったりする。衝突や暴力事件が発生したら市民はすぐに現場を離れ、過激な活動家とは距離を置くべき」と述べた。懸念された立法会襲撃や衝突はなかったものの、不穏な事件も明るみに出た。
香港警察は15日までに男女10人(21~58歳)を爆発物製造共謀の容疑で逮捕した。警察は西貢で男2人が爆発実験を行っているのを発見し逮捕するとともに、高性能爆薬TATPの製造に必要な化学物質やエアガンなどを発見した。その後さらに8人を逮捕し化学物質などが押収されたほか、金鐘と湾仔に「爆薬庫」と記した地図もみつかった。逮捕者らは主に「全国独立党」のメンバーで、同組織はネット上で台湾と連携した香港独立を主張し、改革案が可決されれば「死傷者が出る。立法会はウクライナのように廃墟になる」と警告していた。警察は17日にも立法会周辺で不審な男(17歳)を見つけ、持ち物から約9インチの刃物2本、望遠鏡、トランシーバーが見つかり、攻撃的武器を所持していた容疑で逮捕した。男は昨年、金鐘と旺角の占拠行動に頻繁に参加していたという。
過激派勢力が否決を求めたのに対し主流民意は可決支持が多数を占める。自由党の田北俊・名誉主席が香港大学民意研究計画に委託した大規模な世論調査(5~14日、対象5043人)では、改革案可決について「支持」が51%、「反対」が37%。香港大を含む3大学合同調査(12~16日、対象約1000人)では改革案への「支持」が47%、「反対」が38%。団結香港基金会が中文大学アジア太平洋研究所に委託した調査(4~6日、対象1200人)では「可決すべき」が49.4%、「否決すべき」が39.5%などとなっている。
だが民主派は世論を転換すべく改革案が「偽の普通選挙」であり、「今回可決したら永久に改正できない」と主張。これに対し林鄭月娥・政務長官は立法会で「普通選挙が行われる方が現状維持よりいいはず」と反論。民主派にとっては長年の目標であるはずなのに今になって反対することを疑問視して「説得力のある理由を聞いたことがない」と述べたほか、昨年の占拠行動が中央との信頼、秩序、法治を損なわせ、社会の分裂をもたらし、普通選挙の実現を困難にしたと非難した。
主流民意に反する決定
国務院香港マカオ弁公室の王光亜・主任は6月16日付『文匯報』『大公報』で改革案に関する疑問に回答。可決したら永久に改正できないかについては「わい曲とミスリード的な言い方」と指摘し、いかなる法律も改正が可能と説明。同弁公室は立法会での否決を受け「この結果は香港社会の主流民意に背き、中央政府も望まなかった」と述べたほか、「少数の議員が私利によって普通選挙案を否決し、香港の民主化を妨げた」と民主派を批判した。全国香港マカオ研究会の劉兆佳・副会長は「いわゆる本土派(排他主義勢力)と過激派勢力が台頭し、中央と民主派の関係はさらに悪化する」と懸念している。
立法会での否決後、民主派議員らはただちに政治体制改革プロセスをやり直すよう要求。だが梁振英・行政長官は記者会見で「今後は政治的対立をやめ、経済と民生の議題で合意を図ろう」と呼び掛け、今後2年は政治体制改革には手を付けない姿勢を示した。林鄭長官も22日、「行政長官普通選挙方法」のホームページに寄稿し、「民主派が立場を変えない限り改革プロセスをやり直しても結果は同じ。実際のところ普通選挙案の否決後は法的基盤、立法の時間にかかわらず今期政府が改革プロセスをやり直すのは不可能」と説明した。
一方、香港基本法委員会委員の陳弘毅氏は、来年の立法会議員選挙で当選した議員のうち3分の2が昨年8月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会の決定を支持するならば、次期特区政府があらためて政治体制改革プロセスに着手する可能性があるとみている。
こうした中、公民党の湯家驊・議員は22日、離党と立法会議員の辞職を発表した。湯氏は午前中に公民党メンバーへの公開書簡を発表。党創設時の理念と目標は政治的に中立な香港人を取り込むことだったが、09年末から党の路線はその理念から離れていったと批判。「公民党が中央との関係構築に前向きな最初の民主党派となることを望んでいた」と述べたほか、来年の立法会選挙では民主派が否決権を失うと憂慮している。湯氏は8日、シンクタンクとして「民主思路」を発足。民主派、親政府派それぞれに近い学者らも名を連ね、中央との対話路線を掲げている。
湯氏は11日付『星島日報』で、今回の政治体制改革の失敗は「1国2制度」「基本法」に対する中央と民主派の認識の隔たりにあるため、この溝を埋めることによって初めて次に改革案を可決させるのに有利な条件ができると指摘。昨今の過激な行動に走る排他主義勢力の台頭は「左に振れれば大衆主義、右に振れれば香港独立となり、ともに中央に受け入れられない」ため大変危険だと述べた。過激な勢力がさらに拡大する懸念から社会には暗雲が漂っている。(2014年7月3日『香港ポスト』)