梁振英・行政長官が1月に発表した施政報告(施政方針演説)では「セントラル占拠行動」に関連して「香港独立」を主張する学生会報に対する批判が盛り込まれ物議を醸した。青少年の教育、香港基本法23条に基づく立法、中央で審議中の国家安全法の適用などの問題で議論が巻き起こり、若者たちの独立志向を警戒する声も高まっている。
国家安全法の適用も提唱
梁長官は施政報告で香港大学学生会が発行した会報『学苑』や書籍『香港民族論』が香港独立を主張していることを挙げ、「学生の間違った主張を警戒しないわけにはいかない」と指摘。これらには武装独立や台湾など他地域の独立勢力の力を借りた独立が提唱され、政府にとっては脅威といえる。
1月15日の梁長官の立法会答弁では施政報告のこの部分をめぐり民主派議員と舌戦も繰り広げられた。公民党の梁家傑・代表は、梁長官が自らの政治的地位を強固にするため「香港独立」問題を誇張していると述べ、「施政報告」を「政治闘争綱領」に変えたと非難。工党の李卓人・主席は、梁長官がセントラル占拠の反省として毛沢東のように批判闘争を起こし、香港で「文化大革命」をやろうとしていると指摘した。梁長官は逆に彼らに対し、それら論調(香港の自決、独立、建国)を支持するのかどうかを問い返したり、「2017年の政治体制改革を支持しないならば『普通選挙』つぶしだ」と批判した。
初代行政長官を務めた董建華・全国政協副主席は20日に記者会見を行い、施政報告について「民意に即している」と評価したほか『学苑』への批判に触れ、「大部分の香港人は独立に賛同しておらず、自分がまだ行政長官だとしても施政報告で『学苑』に言及した」と梁長官を擁護、「国家の安全は妥協できない」と強調した。
国家の安全問題に目が向けられる中、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の呉秋北・香港代表は19日、「基本法23条の立法が完了するまでは国家安全法を適用すべき」と提案。民主派議員らから批判の声が上がったほか、親政府派の葉劉淑儀・新民党主席も「23条を立法する方がいい」として否定的な見方を示した。梁長官も「特区政府は国家安全法の適用を検討・準備しておらず、23条の立法も計画していない」と強調。基本法委員会副主任を務める梁愛詩・元司法長官も基本法23条が要求する内容は中国刑法の「国家の安全に危害を与えた罪」に近いのに対し、「国家安全法」は原則的な内容であるため「香港に適用しても意味がない」と述べ、まだ立法段階であることからも議論は適当ではないと指摘した。だが董建華氏は先の記者会見で「23条は適当な時機に立法しなくてはならない」と述べたほか、中央は国家安全法を含む中国本土の法律を香港に適用する権利があると説明した。
セントラル占拠を機に若者の教育問題も注目された。全人代香港代表を務める新民党の田北辰・副主席は昨年12月、商業電台の番組に出演し、「返還以来、特区政府の1国2制度に関する教育は徹底的に失敗したことがセントラル占拠によって示された」と指摘。全国香港マカオ研究会の陳佐洱・会長も1月8日、北京市で同研究会が開催した座談会で「香港の一部若者は国家・民族意識が大きく欠け、セントラル占拠は香港の教育問題を反映している」と香港当局の教育理念に疑問を呈した。
全国香港マカオ研究会は占拠収束後の香港社会を把握するため、昨年末に世論調査を実施した。調査は香港研究協会に委託して12月29日~1月4日、1623人を対象に行われた。「占拠行動は返還後の青少年教育の失敗を反映している」に対し「同意」は44.6%、「同意しない」は41.7%。国民教育の推進については「賛成」が55.6%、「反対」が31.1%。「基本法教育の強化」には56.9%が「必要」、28.8%が「必要ない」と答えた。
セントラル占拠と独立志向
ロイターが昨年10月、セントラル占拠の参加者に行った非公式調査では「香港独立」を支持する傾向もうかがえた。調査は金鐘・旺角で121人を対象に行われ、参加者のうち「香港独立」を支持するのは45%、反対は55%だった。10月19日付『人民日報』に掲載された論説は占拠現場に掲げられたスローガンなどを挙げ、「セントラル占拠の組織者・黒幕の真の目的は選挙の民主化や1国2制度下の高度な自治ではなく、香港の『自主』『自決』ひいては『独立』である」と述べるなど、香港独立に対する中央の警戒は高まっていた。
全人代常務委員会の李飛・副秘書長(基本法委員会主任)は昨年8月の記者会見で「返還後、一部の者は中央の統治権を認めず、植民統治の維持を画策する勢力もあり、国家の安全に現実的な脅威となっている」と述べ、中央に敵対し独立を主張する者を行政長官にすることはできないと説明。9月に来港した際の特区政府高官との説明会では「ごく少数の者は中国が香港の主権を回復した事実を受け入れず、香港を独立した政治実体にしようと企んでいる」と述べていた。
一昨年10月にはセントラル占拠の発起人らが台湾の元民進党主席らと会談したが、国務院台湾事務弁公室が注視していると表明したほか、同年10月30日付『人民日報』に掲載された論説では「香港のビジネス環境が極端な勢力の脅威に直面している」と、主にテロ活動を行う勢力を指す「極端な勢力」との表現を初めて香港について使った。
すでに極端な行動を起こす若者も現れ、不穏な空気も漂っている。1月13日未明に『りんご日報』の黎智英・前社長宅の玄関と、同社のある将軍澳の壹伝媒大楼入り口にそれぞれ火炎瓶を投下され、事件に関与したとみられる17歳の学生が逮捕された。学生の自宅からはガラス瓶やアルコールなど火炎瓶の材料や模倣拳銃、警棒、手製の刀、ヘルメット、映画『Vフォー・ヴェンデッタ』の仮面などが見つかり、セントラル占拠に参加していたことも明らかになっている。
人材コンサルティング会社ECAインターナショナルが1月に発表した世界各都市の「住みやすさランキング」で、香港の順位はアジアでは昨年と同じ6位だが、世界でのランキングは33位となり、昨年の17位から大きく後退。同社は香港が他のアジア地域に比べ空気が悪いほか、セントラル占拠が香港の社会と政治ムードに緊張をもたらしたため「社会・政治分野」のポイントが低下したと説明。セントラル占拠による代償が徐々に表れてきたようだ。(2015年2月6日『香港ポスト』)